【現場ルポ】〈新日鉄住金エンジが受注した茨木の最大級物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)茨木」〉独自の免震装置「球面すべり支承」など鉄に根差した技術力発揮

 新日鉄住金エンジニアリングの建築・鋼構造事業部(事業部長・村上信行執行役員)が三井不動産から設計・施工を受注した「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)茨木」(大阪府茨木市)は延べ床面積約24万2千平方メートル、総鋼材使用量は4万トンを超える国内最大級の物流施設。新日鉄住金グループとして鉄に根差した技術力をフルに発揮し、建設を進めている。現場を取材した。(村上 倫)

 本施設の敷地面積は約10万9千平方メートルで、名神高速道路の茨木ICから至近の距離にある交通の便のよい好立地だ。鉄骨造地上6階建て、鉄骨重量は約3万トンで、新日鉄住金の外法一定H形鋼「ハイパービーム」約1万トンも含まれる。

 同社が手掛けた最大の施工案件で、独自の構造設計ノウハウ「グリッド設計」を採用し、柱スパンの最適化設計を実施。躯体コスト削減を図っている。

 施設は地震時に内部の在庫や躯体を守る免震構造。免震装置には振り子の原理と鉄の技術を融合した独自の球面すべり支承「NS―SSB」を409台使用している。14年に販売を開始した最新製の免震装置で、建物重量の変化に免震性能が影響しないことが最大の特長だ。これにより、積載荷重の変動に左右されない安定した免震性能を実現することが可能となった。装置がコンパクトなため、免震ピットのスペースも縮小できるなどメリットは高い。

 「SSB」直上となる1階(0節)の柱梁は通常、鉄筋コンクリート(RC)やプレキャストコンクリート(PC)などが多いが、本件では鉄骨造を採用している。RC造の場合には鉄筋工や型枠工が必要となるが、労務はひっ迫しており、鉄骨造とすることで省力施工を実現。工期短縮にも寄与した。コンクリート床の品質向上にも効果を発揮している。

 また、高い地震エネルギーの吸収能力を持つ制振用ダンパー「アンボンドブレース」を636本(2230トン)使用。免震構造では、建物自体は剛体が理想となるが、施設中央部分を車路が通っているためブレースが設置可能な部分は限られていた。そのため、1~3階はプレスコラムを用いたコンクリート充填鋼管(CFT)を適用し、建物の剛性を高めている。さらにブレースの位置とシャッター位置を各階ごとで微妙に変える工夫を施し、ブレース構造で6階建ての免震構造を実現した。

 さらに鉄骨重量3万トン超の大型案件のため、ファブリケーター10社以上に分割発注するなど施工管理も工夫。床面積が広いため、鉄骨を建てつつ屋根を葺いてコンクリート打設時の雨だれを極力防いでいる。杭打ち時には山谷に位置するため支持層の浅深差があったが、場所打ちコンクリート杭の打設時に一つひとつ地層を確認・記録するなど杭の支持層の確認を徹底して行った。

 施設は各階にトラックバース、建物の両側にランプウェイを配したマルチテナント型。下りランプと上りランプを明確に分けることで、安全で効率的な動線を確保した。各階は色分けし運送時などに何階にいるか色でも判別できるよう配慮した。LED照明やIoTの活用で消費電力も大幅に抑制。さらにカフェテリア「スカイラウンジ」や屋上のスカイテラスといった休憩スペースも充実しており、施設での働きやすさも追求した。施設への出入り部分には水景施設を備えるなど物流施設とは思えない上質な空間を実現している。

 16年5月にオールケーシング工法による杭工事を開始。今年9月の引き渡しという短工期だが、工事は順調に進ちょくしている。MFLPの拠点の中でも最大規模で「MFLPのすべてを注ぎ込んだ先進的な施設」という。「SSB」の使用においても最大案件で、新日鉄住金エンジにとっても本件は鉄骨造の免震構造「標準化」のモデルとなり、急速に標準化が進む記念碑的な案件となる。

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