【現地ルポ】〈日鉄住金P&E、溶接技術の中核施設「貝塚溶接技術センター」〉パイプライン溶接品質を向上 溶接士の技能向上・育成も

 日鉄住金パイプライン&エンジニアリングの貝塚溶接技術センター(大阪府貝塚市)は日本のインフラの根幹となるパイプラインをつなぎ、ライフラインの安全・安心を担保する上で非常に重要となる溶接技術の中核施設だ。同センターを取材した。(村上 倫)

 貝塚溶接技術センターは大阪湾を臨む静かな立地。敷地面積は約6400平方メートルで、建屋は事務所と実験・訓練スペースを有する1号棟、倉庫や大型実験、内作スペースを有する2号棟に倉庫で、屋外クレーンなども備えている。元来、旧住友金属パイプエンジの施設で、旧日鉄パイプラインは旧新日鉄エンジの相模原技術センターで開発を行っていた。現在は2社の統合により貝塚が日鉄住金P&Eの技術本部溶接技術部の所管となり、唯一の溶接技術拠点となっている。

 技術開発や溶接設備管理を担う溶接技術室と溶接研修などを担う溶接室の計50人強が所属。その役割は溶接技術開発、その現場展開・管理など溶接技術の拠点機能、溶接士の育成・訓練、施工法の取得と管理など溶接士の本拠地としての機能だ。

 溶接技術の開発ではバッキングレス自動MAG(メタル・アクティブ・ガス)溶接法をいち早く実用化。従来必要だった銅裏当て不要の全自動裏波MAG溶接を実現し、省力化と溶接時間の短縮などを図った。さらに溶接に必要な金属の低減に向け狭開先化が可能となる20度VパルスMAG溶接法を開発。必要な溶接金属量を従来比20%低減したほか、パルスMAGによる溶着速度を同25%向上させ、超高能率・高品質技術を確立している。

 こうした技術は、必要な周辺機器や現場環境に合わせた対策を行いながら現場展開する。使用した設備はメンテナンスを行い、所期の能力が発揮できるかを確認して、新たな現場で活用する。新工法を適用する際には現場にスタッフが張り付いて有事に対応するなど万全の体制を敷く。現在、社内に溶接士は40人ほど。同センターはJISの資格を取得可能で、TIG溶接や狭所難姿勢溶接、自動溶接など実物を用いた必要な訓練ができる設備が整っている。

 さらに実寸大の施工デモンストレーションにより、顧客に技術の理解を深めてもらうことも重要な役割だ。JIS化が待たれるデジタルX線装置なども備えている。溶接部を検査するX線検査装置はフィルムが主流だが、フィルムではフィルムの現像・乾燥に40分かかる。デジタルは現像・乾燥時間がなく、遠方でもデータ転送によって確認可能でメリットが大きい。こうしたデモをガス会社向けに実施し、JIS化などによって現場で活用可能になった際に速やかに適用できるよう、理解を深めてもらっているという。

 センターを統括する矢野嘉孝技術本部溶接技術部部長は「国内ガス会社の品質要求は厳しい。顧客の期待に応えられるよう、日々改良を含め品質向上に取り組んでいる」と強調する。溶接の重要性を知るからこそ、組織や設備をしっかり整えて対応している。そのことを象徴するセンターと言えよう。

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