物質・材料研究機構と民間8社、発電プラントの蒸気配管用耐熱鋼の耐久性試験実施へ

 物質・材料研究機構(NIMS)は、高効率火力発電プラントの信頼性向上を目的に、蒸気配管に用いる高クロム耐熱鋼(高強度フェライト耐熱鋼)の耐久性を調べる長期の試験に乗り出す。電力会社など民間8社との共同プロジェクトで、鉄鋼業からは日鉄住金テクノロジーが参画する。NIMSを中核としたオールジャパン体制のもと、蒸気配管の使用限度を高精度に割り出す余寿命診断技術の確立を目指し、日本が得意とする高効率火力発電の信頼性向上につなぎたい考え。

 参画企業は東京電力、関西電力、中国電力、電力中央研究所、IHI、三菱重工業、三菱日立パワーシステムズ、日鉄住金テクノの8社。NIMSが茨城県つくば市の先進構造材料研究棟に持つ最新の大型クリープ試験機を活用。高温・高圧の環境下で試験片のデータを収集・分析する。

 クリープ試験は、試験片を電気炉で高温にさらしながら、おもりを使って長期間引っ張り続ける材料試験。長期にわたって試験片の変化を記録し、火力発電所で使う耐熱鋼などの信頼性を裏付けるのに利用される。試験期間は長いもので10年以上におよぶため民間企業では難しい場合もあるが、NIMSは豊富な実績を持つ。

 今回試験に用いるのは高クロム耐熱鋼の溶接継手試験片。超々臨界圧(USC)火力発電プラントのタービンに高温・高圧蒸気を送る蒸気配管に適用される重要部材となる。試験条件は炉内温度600度、625度など3条件を設定し、条件ごとに試験片を3本ずつ用いて実施する。

 試験はきょう22日に開始する。21日に会見した物材機構の木村一弘・構造材料試験プラットフォーム長は試験計画について「試験片の内部に損傷や欠陥が発生したシグナルが確認されれば、試験片の1本を切断し、内部を調べるなど実機のプラントではできないことも検証する」などと試験計画を説明。蒸気配管の寿命診断技術が向上すれば、配管の交換時期をより正確に見極めることが可能となり、安全性を確保しつつ保全作業を効率化できるなどと期待を述べた。

 USCプラントは国内で稼働後10年以上経過するケースが増えており、運転効率の維持には正確な寿命診断に基づく部材交換の重要性が増している。溶接部は蒸気配管の中でも相対的に強度が低く損傷が発生しやすいことから今回の試験対象に選定した。

 火力発電プラントの設計基準に用いられる耐熱鋼の許容応力(安全に使用できる応力の限界値)は10万時間(約11年5カ月)のクリープ強度に基づいて決められる。今回試験期間も試験片によっては11年程度に及ぶ可能性もある。

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