特徴は“レースでの強さ”/GT300マシンフォーカス:ポルシェ911 GT3 R

 2017年シーズンは15車種30チームがし烈なバトルを繰り広げるスーパーGT300クラス。数多くある車両から1台をピックアップし、ドライバーや関係者にマシンの魅力を聞いていく。

 今回は長年スポーツカーレースで多くのカスタマーで愛される存在、ポルシェ911 GT3 Rにフォーカスする。

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 ポルシェ911 GT3 Rは、ポルシェのもっとも代表的な車種である911のレーシングバージョンのひとつ。現在スーパーGT300クラスに参戦するD’station Porsche、GULF NAC PORSCHE 911の2台は、タイプ991と呼ばれる現行世代のモデルだ。先代はタイプ997、さらにその前は996と呼ばれるモデルだった。

 991のレーシングバージョンとしては、今季からWEC世界耐久選手権にフル参戦を開始した911 RSR、この911 GT3 R、そしてポルシェカレラカップで使用される911 GT3 Cupがあり、この911 GT3 RはRSRに次ぐ存在。2015年のニュルブルクリンク24時間の会場で初公開された。

 先代のタイプ997からの違いは多岐に渡っており、まったくその性格は異なる。

 新開発された直噴4リッター・自然吸気水平対向6気筒エンジンをはじめ、軽量アルミとスチールを組み合わせたハイブリッドボディフレームのみを残し、大幅にカーボン化されたボディワーク、空力の向上、燃料タンクの容量アップや作業性の向上など、年々パフォーマンスが上がるGT3レース界において一線級の性能が保たれている。

 そんなポルシェ911 GT3 Rだが、かつてGT300クラスにおいては“直線番長”のイメージが強かった。

“ポルシェ=直線番長”のイメージがあるが、現在の特徴は「コーナリングマシン」だという

 富士スピードウェイのロングストレートで、ライバルたちを次々とかわしていく印象がまだ強い人も多いかもしれないが、現在のタイプ991におけるポルシェの特徴は「コーナリングマシン(D’station Racing武田敏明監督)」だ。

 性能調整の影響もあるが、現在のポルシェはコーナリング性能を伸ばすことに主眼を置かれた性格となっているのだ。

■特徴は“レースでの強さ”

 昨年はExcellence Porscheとしてポルシェ911 GT3 Rを走らせ、今季はD’station Porscheを走らせるKTRだが、今季加入した藤井誠暢はシーズン序盤のテストで「ポルシェはこうして走らせれば速くなる」というセットアップを追求。それが第2戦富士での表彰台にも繋がった。

 また、今季は他のGT3カー(メルセデスベンツAMG GT3やBMW M6 GT3等)と同様、本格参戦2年目を迎えタイヤとのマッチングが進んだことにより、パフォーマンスが上がっている。

 さらに、他のGT3カーと比較すると“特徴がはっきりしている”のも、このポルシェ911 GT3 Rの特徴なのかもしれない。

ポルシェ911 GT3 Rはタイムの落ち込みやタイヤの消耗が少なく、「レースに強い」マシンに仕上がっている

 藤井、そして武田監督とも口を揃えるのは「レースでの強さ」だ。タイムの落ち込みやタイヤの消耗も少なく、コースによってはリヤのみの2本交換も可能。実際、昨年のExcellence Porscheの頃も山野直也はしばしば同じ内容を口にしていた。

 中盤戦は他のGT3とはタイムが接近しており、第2戦同様の追い上げを目指した第5戦では、同じパターンにすることはできなかったが、500kmや1000kmのレースでは強みを発揮するかもしれない。逆に言うと、予選での一発のタイムが出しにくく、そこは課題と言える。

 その他の特徴としては、RRレイアウトによりウエットが比較的得意。ヨコハマ勢は今季ウエット時のパフォーマンスではやや苦しい部分もあるが、武田監督は「ウエットでも大丈夫」だという。

 得意なコースレイアウトは富士やもてぎ、ブリーラムのようなレイアウト。鈴鹿やオートポリスのような中高速は少々“苦手”な範囲になるかもしれない。

 そしてこのGT3 Rは、ポルシェのモータースポーツ活動のなかでもカスタマーレーシングの入口としての性格をもっており、カレラカップで使用されるGT3 Cupから違和感なく乗り換えることができるという特徴もある。

 第4戦SUGO、第5戦富士とD’station Porscheをドライブした元嶋佑弥も「カップカーと基本は似ていて、違和感なく乗ることができました」という。カレラカップの経験をもち、昨年GT3 Rに乗った山野も同様のコメントを残している。

 カレラカップで腕を積み、GT300やブランパンGT等にステップアップする……というドライバーにとって、ポルシェ911 GT3 Rは理想的な1台でもあるのだ。

D’station Porsche
D’station Porsche

■今後も上位を争う? 2台のGT3 Rの戦いに注目

 ちなみに、GT300クラスに参戦する2台についてトリビアを少々。D’station Porscheは、今季バンパー下部の補助ライトを残したままになっている。

 GT3カーは、スプリント用のパッケージと耐久用のパッケージが用意されており、このライトは耐久用の装備なのだが、本来スプリント用が使えるGT300において、ライトを残したままなのは「カッコいいから」。チームとしての“コダワリ”なのだ。

GULF NAC PORSCHE 911

 また、GULF NAC PORSCHE 911は今季非常に好調で、D’station Porscheを上回る成績をしばしば残しているが、これについて峰尾恭輔は「今季は本当にチーム力が上がりました。開幕前のテストから、いろいろな注文をつけていて、チームがしっかり応えてくれて」いるのがその理由と明かしている。足回りのセットアップもD’station Porscheとは違うトライをしている様子だ。

 伝統的なストラットサスペンションを使用するなど“弱点”もあるのだが、そのバランスやドライブのしやすさ等から、海外でも高い信頼を集めているGT3 R。今季はまだ得意コースも残しており、まだまだ活躍をみられるかもしれない。

ポルシェのカスタマーレーシングの入り口を担う役目も背負う

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