ブランパンGTアジア富士:日本勢躍進。理由はタイヤへの慣れと準備?

 8月19〜20日に、富士スピードウェイで行われたブランパンGTシリーズ・アジア第4ラウンド。このレースではレース1でケイ・コッツォリーノ/横溝直輝組CarGuy Racingのランボルギーニ・ウラカンGT3が優勝を飾るなど、第3ラウンドの鈴鹿に比べ、日本勢の健闘が目立つ結果となった。この理由はいったいどんなところにあるのだろうか。

 2017年から、ヨーロッパで多くのエントリーを集めているブランパンGTシリーズのアジア版としてスタートしたこのシリーズは、マレーシア、タイでの2戦を経て、6月24〜25日に鈴鹿サーキットで、そして8月19〜20日に富士で中盤の2戦が開催された。そのなかで鈴鹿では4チームの“日本勢”が登場したほか、富士ではPorsche Team EBIが参加。さらに日本人ドライバーも増えた。

 6月の鈴鹿では、スーパー耐久でも素晴らしい速さをみせ、オートポリス戦で優勝も飾っている永井宏明/佐々木孝太組ARN RACINGのフェラーリ488 GT3がプロ-アマクラスの表彰台を獲得したものの、全体的に日本勢としては苦しい状況にあった。しかし、富士ではCarGuy Racingの優勝をはじめ、星野敏/荒聖治組D’station Racingのポルシェ911 GT3 Rがレース1でプロ-アマクラスの3位表彰台を、永井/佐々木組ARN RACINGのフェラーリがレース2でプロ-アマクラス3位を獲得するなど、日本勢の活躍が目立った。また、予選でも日本勢のグリッドは総じて上がっている。

■プロ-アマで速さをみせた2チーム

 この躍進の理由はチームごとに異なるが、いちばんの大きな理由としては、ブランパンGTシリーズ・アジアでワンメイクタイヤとして使用されるピレリへの慣れがあるだろう。とくに鈴鹿から継続参戦だったチームのうち、D’station Racingの荒は「鈴鹿よりもずっといい」と語っていた。

 荒によれば、鈴鹿で得られたピレリのデータをもとに合わせたセットアップを施し、それが功を奏したという。また、レース1では星野が集団の中でみせた奮闘が表彰台に繋がったのは間違いない。ふだん星野はスーパー耐久やポルシェカレラカップ・ジャパンを主戦場としていることもあり、「まわりがどんなドライバーか分からないので、どう戦えばいいかが難しかった」というものの、「交代してからも『星野さんのペースで走るのは大変だな』というくらいだった」と荒も驚くほどのペースだったのだ。

 D’station Racingのレース1の場合は、プロ-アマクラスの表彰台を確実にしていたARN RACINGが、混戦のなかのバトルでタイヤを傷めてしまいピットに戻ってしまったこともあっての表彰台だったが、大いに評価に値する。「表彰台に一緒に乗れたのは本当に嬉しい。あきらめないで走って良かった」と荒は笑顔をみせた。

 また、この富士では「勝ちを狙っている」と佐々木孝太も語っていたARN RACINGのフェラーリは、レース1では前述のとおりタイヤトラブルにより表彰台を逃したものの、レース2で予選4番手からスタート。総合4位、プロ-アマクラス3位を得た。「グリッド位置も良かったので、あわよくば優勝を狙っていました」と永井はレース後語っているが、スプリントでもふたりの速さが活きたかたちだろう。

■準備を重ねて速さをみせたCarGuyとEBI

 レース1で優勝を飾ったCarGuy Racingの場合は、少々2チームとは事情が異なる。チームは金曜の走行前に、急遽木村武史に代わって、横溝直輝がケイ・コッツォリーノのパートナーとなった。これによりクラスもプロ-アマからシルバーに変更されている。これは同時開催のランボルギーニ・スーパートロフェオに木村がダブルエントリーとなっており、体力の問題を考え変更したものであるが、結果的に周囲も「ちょっとズルい(笑)」とうらやむドライバーラインアップとなった。ふたりの速さが勝利に結びついたのはまずひとつの要因だろう。

 また、このふたりはコッツォリーノがスーパートロフェオやGT3等で、横溝がアジア各国のレースに参戦し、ピレリタイヤのことを良く知っているのも大きい。さらに今回のレースではランボルギーニのレース部門であるスクアドラ・コルセからエンジニアが派遣され、これも功を奏した。「バツグンにクルマが良かった」とはレース後のコッツォリーノのコメントだ。

 そして、CarGuy RacingはチームでウラカンGT3を2台、そしてスーパートロフェオを2台所有しており、“練習”として富士や鈴鹿を走り込んでいたのだ。この際にGT3で使っていたのは別銘柄のタイヤだが、「自分たちアマチュアもそうですし、プロも育つと思っていたので、それが良かったのではないでしょうか。お金はかかりましたけど、それと情熱があれば、僕たちのような駆け出しのチームでも勝てるのだと思います」と木村は代表という立場から、練習こそが結果に結びついたのだと語った。

 一方、初参戦ながら速さをみせたのは、山野直也/坂本祐也というコンビで参戦したPorsche Team EBIだ。ふたりともスーパーGT、ポルシェ、そして富士はまったく不安がないというほどの経験がある。そこでチームは、事前にピレリを購入しテストしたほか、山野と鈴木直哉エンジニアが鈴鹿戦を視察し、今回の参戦に備えていた。

 金曜のフリープラクティスが雨交じりになったことで、セットアップの時間が足りなかったというPorsche Team EBIだったが、5番手からスタートしたレース1では序盤総合3番手を走り、CarGuyとともに表彰台なるか……という展開をみせた。ただスポット参戦チーム1戦目に課せられるピットストップ時の7秒ペナルティにより、表彰台はならず。ポルシェが富士を得意とする性格だった部分はあるにしろ、スポット参戦チームでも、周到に準備を整えれば結果を出せることを証明してくれた。

■ブランパンGTシリーズ・アジアを勝ち抜くカギ

 この日本ラウンドの2戦を終えて多くのドライバーから聞かれたコメントを総合すると、ブランパンGTシリーズ・アジアで上位を得るためには、ピレリの特性を覚えること、日本の基準とは少々違うバトルの戦い方、そして予選順位が重要であると感じられた。

 ピレリについては、「アンダーオーバー」「横方向に動きが大きい」等々さまざまな意見を聞く。使いこなし方にはやはりコツがあるようで、ヨーロッパのブランパンGTシリーズに参戦する千代勝正も「コツはあります」と語っている。これをうまく使うことがやはり大切なようだ。

 そして、予選で前方のポジションをキープしておくこともこのレースのキーポイントなのは間違いない。1時間というスプリントに近いレースであるため、序盤に中団グループで埋もれてしまうと、クルマが良くても挽回するまでにあまり時間がない。「予選が良かったら……」という声も多く聞かれている。

 一方で、多くのドライバーが口を揃えていたのが、この参戦で「楽しかった」「すごくレベルは高かった」というコメントが聞かれたことだ。ふだんの日本のレースとは違うバトルやレーススタイル、ホスピタリティ等々、やはり新鮮な印象が大きかった様子だ。

 来季からスタートする鈴鹿10時間をはじめ、こういったワンメイクのコントロールタイヤを使用するGT3レースは世界的には標準となりつつある。今後、そのなかでの“腕試し”をする際、ブランパンGTシリーズ・アジアは格好の舞台になっていくかもしれない。

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