【新日鉄住金・事業部長インタビュー】〈チタン・特殊ステンレス事業部・松木教彰参与〉製造業・建材向けに注力 顧客と連携、国内需要開拓

――全国チタン展伸材出荷量は昨年度まで4年連続で前年度を上回った。この先の需要をどうみているのか。

 「海水淡水化プラント向けなど大型プロジェクトが少ないため、今年度は大きな伸びは期待できないだろう。ただ、プロジェクト向けだけで景況感は判断できない。まだ相対的に需要規模の小さい自動車などの製造業や建築向けはここ数年着実に増えており、航空機向けの在庫調整も進んでいる。来年以降はかなり期待できるのではないか。既存の主要分野の発電プラントや船舶用PHE(プレート式熱交換器)、電解プラント向けは今後、多少の振幅はあっても現実的な水準で推移するとみている。新しい用途にも期待している」

新日鉄住金・チタン・特殊ステンレス事業部・松木参与

――8月1日付で組織体制を変更した狙いは。

 「『自動車・電機室』『航空機・医療品室』など需要分野オリエンテッド(志向)の体制に改めた。これまで別々だったチタンと特殊ステンレスの営業窓口を一本化し、チタンも特殊ステンレスも合わせて営業を行う。営業を効率化し、商品開発やユーザーとのタイアップに人手や時間をかけていく」

 「事業部では全世界の全分野のチタン製品を扱うため、効率化という視点は特に重要だ。引き続き商社や流通を含め、ユーザーまで一貫の視点で効率的な体制や仕組みを考える。チタンの大口需要先は海外が多いことから、海外の流通拠点、特約店などのパートナーとの仕事の仕方も改善したい」

――次期中期経営計画の策定はこれからだが、収益を積み上げていくために今後何に注力していくのか。

 「安定した需要の獲得にも通じるが、国内のお客様との連携・協力に一層注力したい。特に自動車、電機などの製造業向けと建材に力を入れたい。これまでは輸出に依存しすぎていた面もある。当社のチタン展伸材の輸出比率は数量ベースで7割弱に及び、海外プロジェクト動向や市場環境の変化、為替変動に収益が左右されやすい。国内の潜在需要を開拓し、国内向けを5割程度に増やしたい」

 「日本は製造立国。鉄と同様、チタンも素材として日本製造業の競争力に大きく貢献できるはずだ。ただ、国内製造業の中でチタンの価値や利点が十分浸透しているとは言い難い。逆に言えば潜在需要はまだまだあると考えており、お客様との双方向の対話を大切にし、需要拡大を共に実現していきたい」

 「チタンという金属は海水耐食性に優れ、軽量で強度も高い。生体適合性や光触媒機能、美麗で多彩な外観を表現できる高い意匠性もある。チタンの多岐にわたる特性を一つひとつ明らかにして着実に用途開拓を進め、ユーザーにチタンの潜在的な価値、可能性を理解して頂くことが何より重要な課題だ。技術開発やさまざまなサービスの提供を継続・強化するために、付加価値に見合った販売価格の実現が不可欠ということにについても理解活動を進めたい」

――東邦チタニウムと共同出資の事業会社「日鉄住金直江津チタン」は航空機向けチタン合金インゴットの量産を目指して約4年が経つ。現状は。

 「想定より時間がかかっている面もあるが、航空機メーカーの認証取得を着実に進めている。東邦チタニウムの協力もあり量産技術の確立は順調だ。製鉄事業で培ったシミュレーション技術を溶解炉の炉内制御に生かすといった取り組みもしており、この分野では後発だが、鉄鋼メーカーの強みを生かして新たな展開を図れると考えている」

 「航空機向けが主目的だが、チタン合金の需要は航空機以外にもある。自動車向けの耐熱合金などは好例だ。航空機メーカーの認証取得を急ぎつつ、航空機以外の分野でも新たな合金需要を開拓し社会の発展に貢献したい」

――3月に日新製鋼を子会社化した。日新製鋼と特殊ステンレス分野のシナジーをどう創出するのか。

 「当社は直江津製造所で建材向けの条鋼や自動車向け薄板といった特殊ステンレスを生産している。日新製鋼とは薄板分野で事業分野が重複する。生産面・営業面で新日鉄住金グループトータルのシナジーを追求する」(石川 勇吉)

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