波乱の時代語る紙芝居 戦争孤児、渡せなかった卒業証書 「山本少年」消息捜し続け平塚の団体

 戦争孤児だった山本数行さんを知りませんか−。紙芝居「一まいの卒業証書」を通じて戦争の残酷さや平和の尊さを考えようと、平塚市などで活動する市民団体「心をつなぐ紙芝居の会」が力を入れている。少年と教員の出会い、小学校卒業を前に姿を消した少年に渡せなかった卒業証書などについて、戦後の世情を織り交ぜながら描かれている。山本少年は生きていれば83歳。72年たっても戦争は終わっていない。

 平塚市浅間町の市中央図書館で今月開いた上演会。「戦争によってこういう出来事もあったと伝えたい。小学校や孤児時代の仲間…。ぜひとも山本さんへの情報につながったら」。主宰の森内直美さんが情感豊かに作品を披露。約40人が静かに耳を傾けた。

 紙芝居は、教育評論家・児童文化研究家の故金澤嘉市さんの実話を基に制作された。

 物語は敗戦直後。当時11歳の山本少年は、集団疎開中に大阪にいた家族を空襲で失い孤児となった。待遇の悪さといじめに遭って孤児院を飛び出し、物乞いや残飯でしのぎながら1948年夏に東京・新橋へ。靴磨きで生計を立てていたところ果物店の主人に引き取られ、港区立桜川小学校(現御成門小)5年の金澤先生が教えるクラスに編入する。

 学校になじんだかに見えたが、再び孤児仲間の元に戻って姿を消す。級友たちの努力のかいもあり一度は学校に戻るが、6年生として登校することなく卒業式の日を迎えてしまう。

 証書は金澤先生が所持し、定年後も行く先々で消息を問い合わせたという。86年に亡くなった後は、出身地の愛知県蒲郡市の市立図書館に保管されている。

 心や平和をテーマに読み語りを30年前から続ける森内さん。今春復刊したこの紙芝居に感銘を受け、すでに県内など約10カ所で演じてきた。「今回も山本少年の消息をたどれなかったが、平和の尊さを伝えながら捜し続けたい」と話す。

 母親と熱心に聞き入っていた平塚市内の小学校2年の生徒(7)は「優しい先生が生きているうちに卒業証書を渡せたら良かった。生きていくことが大変な時代があったんだなと思った」と思いをはせた。

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