FIA F2ベルギー:悪夢のような週末に落ち込む松下信治「人生で一番大きなクラッシュ」

 松下信治のFIA F2ベルギーラウンドは、壮絶なクラッシュで幕を閉じた。フリー走行からマシンの仕上がりが悪く、雨の予選で15位という苦戦、レース1ではスタートでストール、そしてレース2ではオールージュでクラッシュと、悪夢のような結末を迎えてしまった。

「単純にリヤのグリップを失ってオーバーステアが出ただけです。前の(グスタフ・)マリヤと争っていて抜けると思ったんですけど、結構リヤタイヤもタレてきていたこともあって、マリヤについていったらターン3(オールージュの右コーナー)でいきなりグリップが抜けて、あとはもうステアリング修正ができるような状態でもありませんでした。今までの人生で一番大きなクラッシュです」

 松下は事故の衝撃で潰れたラジエターから吹き出た高温の冷却水を浴びて左手首と右脚に火傷を負ったが、それ以外は無傷でCTスキャンでも異常は見られなかった。ステアリングを放り投げてコクピットから脱出したのも、熱湯の熱さから逃れるためだった。

 以前から高速寄りのサーキットを得意としないARTだが、有力エンジニアがプレマに引き抜かれた昨年以降はチームの技術力低下が目立ち、今年はそれがより顕著になった。F1の金曜FP2後にウエットコンディションで行なわれた予選で、松下は残り4分弱の時点で出た赤旗の影響もあってタイムを伸ばせなかったが、チームメイトのアレックス・アルボンはフルにアタックを完遂しても10番手止まりだった。

「今週はそもそもクルマのペースが良くなかったんです。完璧にアタックできても最終的には10番手くらいの速さしかなかったと思います」

 15番グリッドから臨んだ土曜のレース1では、いつもは得意のはずのスタートでストールを喫してしまった。路面のグリップが想像よりも高く、そのグリップにエンジントルクが負けてしまったのだ。

「路面が結構グリップしていて、もう少しだけスロットルを開けていれば良かったんですけど、それは結果論でしかないですから……。あの時点でレースは終わったも同然でした」

 ピットに押し戻されてエンジンを再始動しコースに戻ったが、すぐに青旗を振られて周回遅れに。予選後の長時間にわたるデータ分析とセッティング変更によってマシンの仕上がりは上向いていただけにもったいなかった。

「チームにも言われてペースを落として集団を前に行かせてから自分のレースを始めました。何度も譲りながらのレースでしたけど、ペース自体はトップ5くらいだったと思います。普通にレースができていればいつものARTのポジションにはいたと思うんですけどね……」

 日曜のレース2は16番グリッドからのスタートだったが、全車が隊列の中で前走車のスリップストリームを使って走っている状況の中ではなかなかオーバーテイクはできず、レースは膠着状態だった。終盤になってリヤタイヤのデグラデーションが進んだことでバトルが始まったが、松下は15周目のオールージュでクラッシュしてしまった。

「レース2は前日よりも少しオーバーステア傾向でした。スタートはそこそこだったんですけど、完全に隊列が数珠つなぎ状態だったんで全然抜けなくて。(シャルル・)ルクレールだけは次々抜いていっていましたけど、ドライバーの腕が良いのも確かですけど、彼はエンジンが別格に速くて低速からの立ち上がりなんてあり得ないくらいにメチャクチャ速かった。最後の方はタイヤがタレてきてバトルが始まったんですけど、僕もタレてきていたんで全体的にオーバーステア傾向が強くなって、リヤがタレている中での接近戦だったんでオールージュでスピンしてああいうことになってしまって……」

 松下はスパ・フランコルシャンの週末でまさかのノーポイント。

 レース1で優勝したシャルル・ルクレールと2位オリバー・ローランドがレース後車検でスキッドプレートの摩耗違反が見つかり失格とされ、3位のアルテム・マルケロフが繰り上がり優勝。マルケロフはレース2はエンジントラブルでリタイアしたが、これで松下のスーパーライセンス取得条件であるランキング3位のマルケロフとの点差は59にまで開いてしまった。

 ランキング3位を狙うことが現実的でなくなったことは松下自身も認める。しかし計算上チャンスが完全に絶たれたわけではない。松下は最後まで諦めず全力で戦うと断言した。

「もうこれで厳しくなってしまったしランキング3位がどうとかいう状況ではないと思うし、今は落ち込んでいますけど、残りのレースで最後までやれる限り全力でやるしかないと思っています。まだ終わったわけじゃないし可能性がゼロっていうわけじゃないんで、最後まで諦めないし、気持ちを入れ替えてモンツァで頑張ります」

 次戦では松下のマシンも新品のエンジンに換装される。その威力を持って超高速戦モンツァで良い走りを見せてもらいたい。 

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