【現場を歩く】〈斎藤ドラム罐工業・和歌山工場〉開設60年、多品種小ロット受注に対応 3リットルから200リットルまでの製品供給

 斎藤ドラム罐工業(本社・横浜市鶴見区、社長・内藤誠氏)は1932年(昭7)の創業以来、スチールやステンレス製のドラム缶を製造する。今日にかけて地域密着の拠点展開を重ねる一方、現在主力生産拠点の和歌山工場(和歌山県有田市港町、工場長・寒川肇氏)は1957年(昭32)の開設から60年の節目を迎え、幅広い市場ニーズに対応した供給体制を構築する。生産現場の最前線を訪ね、さまざまな取り組みに触れた。(中野 裕介)

 みかんの産地で知られる、和歌山県中部の有田市。沖合の紀伊水道は小型底引き網漁が盛んで、タチウオの漁獲高は日本一を誇る。その玄関口、JR箕島駅から西に車で10分ほどの田畑や住宅が広がる一角に斎藤ドラム罐工業の和歌山工場は立地する。

 和歌山工場は敷地面積が1万平方メートル超に上り、工場棟(3500平方メートル)と倉庫(1千平方メートル)、事務所棟からなる。総勢34人が200リットルの鋼製ドラムをはじめ、中小型ドラムやステンレスドラムの企画と製造、販売を手がける。和歌山を起点に山口県から静岡県にかけての広域に対し、石油化学向けを中心に医薬品や食料品などの需要分野に出荷する。

 工場の敷地に入って間もなく、母材のコイルを保管する置場が姿を見せる。もともと鋼板の供給元だった本社至近の横浜工場が高速道路の開発用地に収容され2002年に閉鎖。コイルを調達し、製品と同じ工場で切断加工する体制となったのを機に、08年に置場を増床した。

 置場と隣り合わせの建屋では、胴と天地板の成形ラインが操業する。200リットル缶とともに、中小型缶に対応した自動、半自動の計2ラインが並走する。多品種小ロットの受注が大半を占めるため、製品の仕様によってラインを使い分けることで生産効率を高めるほか、弾力的な人員の配置に役立てる。小刻みなピッチでラインの幅を調整できるよう専用のガイドを付け、滞りなく次工程に誘導する流れを確立する。

 3リットルから200リットルまでの多彩な容量の製品ラインナップゆえ、和歌山工場では弾力性に富んだ設備の布陣が求められる。天地板用12台、胴体用4台の計16台のプレス機を駆使するのはその一例。機械メーカーとの連携に加え、社員が自らの発案で設備を改良する場合も少なくない。

 互いにアイデアを出し合う中、塗装する際の天板の在り方を見直した。社員有志が鋼製のラックを手作りし、一枚ずつフックに引っ掛ける従来の作業から上下水平に敷き詰める流れに切り替えた。作業能率が上がるほか、鋼板の表面にムラなく塗装できる相乗効果を生んでいる。

社員の発案で設備積極改良/作業性、品質管理に磨き 

 工場の建屋間を仕切る壁を採光できる透明のスレートに張り替え、手元を明るくする工夫を凝らす。現場ごとに必要なものを必要なタイミングで手当できる機動力を兼ね備える所以だ。

 全ての取り組みの前提には▽よりよい製品を作るために継続的改善を行う▽工程の最適化でコストダウンを追求する▽顧客の品質要求を満たす製品作りを目指す―と経営の基本方針に据える3つの柱が息づく。コンパウンドの監視装置やヘリウムリークテスター機を導入するなど積極的な設備投資を通じて品質管理に磨きをかける。

 工場と軒を連ねるテント式の倉庫はこのほど、内部を鉄骨造の2階建てに新調した。容器内を陽圧にして出荷し、開封時の異物吸い込み事故を防止する加圧式自動口金プラグ締め機の導入に伴って缶体の生産ラインを延伸。倉庫の1階部分がその一部に当たり、残りのスペースを製品の置場機能に充てるよう整備した。

 焼付後に乾燥炉から出てきてからの冷却時間が増え、従来に比べより温度が下がった状態で次工程に製品が進む。同社ではさらに有限な空間を活用しようと、テントを挟んで立つもう1棟の倉庫と工場を結ぶコンベアの増設を検討しているという。いずれもこれまで以上に迅速な出荷対応につなげていきたい考えに基づく措置だ。

 時代の移ろいに合わせるように工場はその姿を変える一方、現場を支える社員の平均年齢は30台後半。構内に勤務する26人のうち女性は3人に上るなど次代を担う顔ぶれが各ラインに携わり、ものづくりの最前線を主導する。

訪問を終えて

 斎藤ドラム罐工業の和歌山工場では、さらなる製品の高品質化に向けて設備の更新や増強を実施する一方、人材育成にも力を入れている。

 各工程ごと編成する4つのグループが個人と集団ごとに設定した目標の達成に挑むのはその一例。それぞれの持ち場に対する当事者意識が高まり、生産現場で積極的な改善提案が相次ぐなど好循環を生んでいる。着実に世代交代が進み、若手社員の構成比率が上昇するなか、自発的な資格取得や講習会への参加といった「学び」に対する関心も高まっており、草の根の活動を通じて持続的な競争力が醸成されている印象を受けた。

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