【JFEスチールの輸出営業戦略】〈野房喜幸常務に聞く〉建材薄板事業、東南アジアでFS実施 印ムンバイ駐在、営業増員

――足元の海外市場をどう見ていますか。

 「春先は一時的な在庫調整で海外市況も軟化していたが、以降は反転し熱延コイルではトン当たり500ドル半ばまで戻ってきた。当社も市場環境の改善を追い風に値上げを進めている」

JFEスチール・野房常務

――これまで能力面の制約で輸出向けの余力が限られていました。4~6月期の定期改修が終わり、数量面も回復しそうですか。

 「お客様からの要請に応じ切れない状況が続いてきたが、各製鉄所で加熱炉やスキンパスミルといった設備を増設してきた製造基盤整備が寄与し、今年度下期にはホット年産2千万トン体制が見えてきている。来年度はこの確立を前提に輸出営業もできるようになる」

――出資しているベトナムのフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)で高炉が稼働しました。このオフテイク(販売引き受け)も貢献してきます。

 「もともと当社や台湾の中国鋼鉄(CSC)から半製品・スラブを供給し熱延ミルを稼働させていたこともあり、一貫生産でのトライアルも通常より早く進められる。来年には輸出営業で活用していく方針だ」

 「FHSからの供給先は、まず東南アジアで出資しているお客様で検討していく。マルイチ・サンスコ(SUNSCO)やJ・スパイラルスチールパイプ、JFE商事が出資したトン・ドン・アといった越国内を初め、タイのTCR、マレーシアのマイクロン・スチール、インドネシアのスピンドなどへホット販売を考えており、FHSの安定稼働と出資先のお客様の収益に貢献したい」

――輸出営業での出資先では、パキスタンのインターナショナル・スチールス(ISL)が能力増強を決めました。

 「第2冷延ミルを新設し、来春にも年産能力が倍の100万トンへ拡大する。ISLは溶融亜鉛めっき鋼板やカラー鋼板といった下工程も充実しており、パキスタンの建材薄板市場で強いポジションを築いている。重要なパートナーとして引き続き成長を支援していきたい」

――建材薄板事業では、インドネシアで亜鉛めっき鋼板を造るセルマニ・スチールも好調のようですね。

 「安定的に利益を上げ配当でも貢献している成功事業だ。セルマニが拠点を置くスラウェシ島はじめインドネシア東部は成長性が高い市場。株主としてさらなる成長を支援すると共に関係強化を図っていく。母材のフルハードはJFEの余力が限られていることもありタイのTCRから供給しており、新たなサプライチェーン構築の観点でも成功している」

――出資先以外では、アラブ首長国連邦(UAE)の新興建材薄板メーカー、ユナイテッド・アイアン&スチール(UISC)が10月にも稼働します。JFEにも引き合いが寄せられていますが、どう対応を。

 「冷延、めっき鋼板、カラー鋼板を造るリローラーで、イタリアのダニエリ製を採用するなど優良な設備を持っている。当社としても新たなお客様として原板を供給しサポートしていきたい」

――現中期経営計画では「建材」を重点分野の一つとして取り組んできました。

 「こうした輸出営業のお客様は建材薄板を主力製品としている。これまで我々はリローラーへ原板を供給し間接的には建材需要を捕捉してきたが、川下分野で直接取り組むことができないか、引き続き東南アジアで検討し、事業化調査(FS)を進めていきたい」

――海外事務所戦略は。

 「JFEスチールインドでは、7月に若手の女性社員を派遣し、ムンバイでの営業担当を社長と合わせ2人体制とした。またメキシコでは分室を置いているが、溶融亜鉛めっき鋼板事業のニューコア―JFEスチール・メキシコで工場建設が始まったこともあり、今後さらに強化していく」(黒澤 広之)

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