前橋市消防局が有線ドローンによる「移動型火の見やぐら」の研究を公開 前橋市消防局は、大規模災害時に被害状況を把握するための研究として、高所からの継続的な映像配信を行うために、有線ドローンによる「移動型火の見やぐら」の実証実験を8月29日、群馬県前橋市で公開した。

消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」による実験

 今回の実験は、消防庁による「消防防災科学技術研究推進制度」における平成29年度新規研究課題で、株式会社理経(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:猪坂 哲)の「有線Droneを利用した移動型火のみやぐらとG空間システム連携の研究」が採択されたことを受けて行われた。「消防防災科学技術研究推進制度」は、消防防災行政に係る課題解決や重要施策推進のための研究開発を委託する競争的資金制度。研究内容は、大規模災害時の災害状況を有線ドローンを使用して、サーマルカメラによる空撮とFWA(データを有線ではなく無線を使用する通信サービス)を使用した移動中継車による通信を併用し、災害現場映像をG空間情報を利用したシステムで表示するもの。会場には、研究の関係者だけではなく、有線ドローンの有用性を確かめるために、全国の消防局や官庁からも見学者が集まった。

離陸した有線給電式のドローンPARKとFWA網を使いドローンの撮影映像を中継する指揮車両=8月29日、群馬県前橋市の前橋消防局白川分署

高度122メートルで7日間の連続運用が可能

 公開実験に採用された有線ドローンは、ドローン事業を展開する田中電気株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:田中良一)がモトローラ・ソリューションズ株式会社と共に米 CyPhyWorks(サイファイ・ワークス)社から輸入した「PARC(パーク)」。雨や雪でも飛行が可能な全天候型の飛行ロボットで、7日間の連続運用が可能。防弾チョッキに利用されているケプラー素材で作られたマイクロフィラメントテザーというケーブルで電源を供給し、ドローン本体とのデータ通信も行う。6本のアームは脱着がワンタッチで、組み立てや分解も容易。
 「PARC(パーク)」の飛行は、前橋市消防局北消防署白洲分署で行われた。実験会場に置かれた「PARC(パーク)」は、122メートルのケーブルを巻き取っているスプーラーと、200Vの電力を1070Vに昇圧して給電する電源装置と連動し、指令席に置かれたPCからのコマンドにより、指定した高度に上昇した。上昇後は、地上のスプーラーが常にケーブルを張った状態に維持して、ドローン本体は地上から引っ張られる状態で安定した高度を保つ。飛行中は、離陸した地点からほぼ垂直に上昇した位置を維持し続け、過度に移動することはない。ドローンの位置を移動させるコマンドはないので、360度に回転するカメラを操作して、上空から地上の様子をモニタした。前橋市消防局にFWA電波による画像伝送システムを納入した実績のある理経は、有線ドローンからの映像をG空間情報と呼ばれる災害対策情報の共有システムに中堅する様子も紹介した。
 「PARC(パーク)」の性能は、最大で800時間の連続運転が可能になっているが、安全を考慮して7日間の連続運用が推奨されている。また、本体にはバッテリーも内蔵されていて、ケーブルからの電源が失われても、自力で着陸できるように設計されている。公開実験の最後には、電源装置にある「緊急停止」ボタンを押して、ドローンへの電源を停止し、機体が自力で着陸する様子も紹介された。
 前橋市消防局では、今後も寒冷時の飛行や、夜間での赤外線カメラによるモニタリングなどの実験を行う計画。

デモフライト中の有線給電ドローンPARKと背後はFWA網のアンテナ=8月29日、群馬県前橋市の前橋消防局白川分署
高度120mからの中継映像

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