【品種別戦略】〈JFEスチール缶用鋼板セクター長・野房喜幸常務(1)〉ラミネート鋼板、アセアンでも拡販 輸出価格は一段の是正へ

――今年度も上半期を折り返そうとしている。

 「海外売上比率が8割を越える缶用鋼板セクターは昨年度、前半にかけて一昨年以来の市況軟化で厳しい収益状況に見舞われた。年度後半からは市況が持ち直すとともに、原料炭の大幅な値上げなどに対応した再生産可能な製品価格の設定に取り組んでおり、今年度に入ってからも価格水準の改善が進んでいる。ただし、輸出は他の薄板に比べ値戻しに時間がかかっており、10~12月期以降は一段の是正に臨まなければならない」

――輸出の過半を占めるブリキ原板のローモを取り巻く事業環境はどうか。

 「地域によって温度差がある。中国は需給の観点で世界的に見ても厳しい状況が続くが、営業生産の開始から1年が経つ福建中日達金属の第2連続電気錫めっきライン(ETL)では顧客のアプルーバル(品質承認)が順調に進み、第1ETLとの併用で最適生産に対応している。我々がターゲットとする高級、準高級分野は汎用向けに比べ需給がバランスしており、今後はパートナーとして良好な関係にある東和鋼鉄とともに、中国市場での勝ち残りに向けて商機を見いだしていきたい」

――東南アジアをはじめ他国においては。

 「タイは輸入材が席巻し、市中在庫が調整局面に入っているものの、直近数年増収増益傾向にあるペルスティマは生産拠点を置くマレーシア、ベトナムとも依然需要が底堅く、今期もおおむね好調を維持している。コロンビアのオラサは昨年に続いて最終黒字の計画を立てているが、足元では隣国ベネズエラの政情不安が懸念されるところだ」

――ローモ以外の品種をめぐる拡販の可能性は。

 「引き続きローモは缶用鋼板セクターの大きな柱として、現行の扱い数量を維持していく方向であらゆる施策を検討するが、同時にローモの供給先と重複しない地域や顧客に対する輸出を通じて、ブリキの伸び代は十分あると認識している。ここ数年の成果も着実に上がってきており、さらに上積みしていきたい」

 「ブリキと並んでラミネート鋼板も非常に大事な戦略商品の一つに挙がる。現状においても米国のBPA規制問題に端を発して、北米向けの輸出が順調に数量を伸ばしており、早晩タイをはじめアセアン地域も市場開拓の対象に入ってくるだろう。タイ・ティン・プレート(TTP)の協力などを得ながら拡販する余地は大いにあるのではないか」

――国内では缶用鋼板の需要減も一時に比べて落ち着いている印象を受ける。

 「まずは足元の市場占有率(シェア)を着実に維持、向上させるとともに、海外でしっかりと稼げる体制を構築していかなければならない。市況や為替の影響を受けやすいとはいえ、国内外の事業が両輪となって機能すれば、2012年のセクター創設以来掲げる収益目標の達成にも近づけるだろう。今春に月産の日本記録を更新した西日本製鉄所福山地区の第5連続焼鈍ライン(CAL)をはじめとし、現行の供給体制で着実に国内外の需要を捕捉していく」

――将来への種まきに向けて、新商材の市場投入が待たれる。

 「ダブルリデュース(DR)材と同等の高強度を持ち、しかも加工性に優れた新製品の開発にめどがつき、今後の大きな戦力になるだろう。ゲージダウン(薄肉化)においては、顧客からの要請を受けて初動する従来の態勢から、提案型の対応に切り替えるほか、新たな発想で開発に取り組めるよう薄板と缶用鋼板の研究部門で交流を始めている。いずれも5年、10年先を見据えた取り組みであり、中長期的な視点で新たな需要創造を促す契機につながるのではないかと期待している」(中野 裕介)

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