【新社長インタビュー】〈コベルコ鋼管・松原弘明氏〉精密細管受注、世界3位目指す 独自加工技術で大口径管品種も

――就任に当たっての抱負。

 「会社が良い方に向くタイミングでの就任。和田前社長が打ち出した事業戦略では、個人、組織実力の向上のため3T(TQM、TPS、TPM)を導入し、事業基盤強化ができつつある。個人と組織の実力向上と、事業戦略をスパイラルアップして確実に実行し、永続的成長と未来創造を行うことが使命と捉えている。現在の中期計画に対し、事業環境の変化に合わせて軌道修正を加えていく。そのアプローチは松原流を貫く」

――鋳鍛鋼一筋のキャリアとの違いに戸惑いは。

コベルコ銅管・松原社長

 「コベルコ鋼管の素材の多くは、前職時代の神戸製鋼所の鋳鍛鋼で製造したもの。常務執行役員時代は鋳鍛鋼・チタン・鉄粉に加えて、コベルコ鋼管も管掌範囲内だったため、当時から和田前社長とは深く議論を重ねてきた。プレスと違って成形連流ラインを扱うのは初めてで勉強中。基本的にモノづくりが好きで現場とも議論を重ね、大いにやりがいを感じている」

――どのような経営を目指すのか。

 「シームレスステンレスパイプの世界的需要は長期トレンドで見ると一定率で伸びているが、足元は原油安で好調とは言い難い。当社の国内市場におけるポジションは2番手の好位置で、生産規模に見合っており、短納期・小ロット対応できる当社が活躍できるポジションである」

 「主要設備の2千トン押し出しプレスは軽量級で、これまで大径管のメニューがなかった。独自の拡管加工技術を開発し、今まで最大6インチ径だったサイズを、足元は8インチ径まで製造可能とした。2018年度までには12インチ径まで製造可能とする。需要家は一回で必要な全種類をそろえたいとのニーズが強い。当社の強みである短納期小ロット対応に大径のラインナップを加えることで利便性が増し、受注機会増加を狙っていく」

――得意分野の精密細管は。

 「シームレスステンレスパイプの世界需要から見て、精密細管はどの品種よりも今後の伸長が期待できる。半導体製造用の特殊ガス配管需要が増加し、自動車の直噴エンジン部材向け需要も底堅い。この分野での当社の受注実績は2015年で5位(世界シェア4・3%)だが、将来的に3位を目指す。月産13万本から17万本程度への増産が見込まれるが、現状でも生産枠は取り合いの状態で、生産に見合った設備投資で順次ライン拡張を検討する。大径管はJIS認証が下りて受注本数が見通せる状況になれば、熱処理設備などの増設を検討する。建屋増設の前に、可能な限り構内建屋のライン物流や置き場の見直しを図り、増設設備を入れ込む。2015年10月末以降、無災害を継続(2017年8月8日時点)しているが、生産性向上と同時に、安全面の向上のためゆとりのある作業空間も作っていく」

――昨春の社名変更、東京・下関の2本社体制への反響は。

 「前社名の神鋼特殊鋼管から、世界的に通用する「コベルコ」の名を冠したことで、海外顧客からの受けは格段に良くなった。東京支社を東京本社にして、営業部隊をサポートする企画部隊も常駐することで、従来以上に顧客対応が向上している」

――業績と市況はどうか。

 「2018年3月期の経常利益は7億円と改善させる。2020年以降はROS5%を安定的に達成させる。今春に国内向け価格を約10%値上げと発表したがパイプ市況は基本的にアロイ連動で、弱含み状態。」

――人材確保や人材育成について。

 「知名度が低いのがネックで、採用活動は難航。東京・下関両方で予定人員が集まらない。現場作業員も近隣の採用活動のみではハードルが高く、九州まで足を延ばしている」

 「工場の最大課題は人材育成、技能継承に尽きる。現場要員の数は足りているが、戦力としては足らないのが現状。現行人数で戦力が上がれば最高だが、一時的に労務費が増えても、人数を確保せねばならない。ベテラン技術者の技能を若手に継がせるにしても、教育側と受け手側の世代間ギャップは激しい。外部講師を招きながら、働く意欲向上やコミュニケーション能力向上の勉強会も開いている」

 「私個人の行動規範は慈愛と双方向コミュニケーション。組織内できっちり意思疎通が取れていれば組織力は向上する。社員一人ひとりが今日・明日の行動を明確化し、目標に向かって着実に行動することで小さな達成感を積み上げていくことで、将来の成果につなげてほしい」(小田 琢哉)

プロフィール

 松原 弘明氏(まつばら・ひろあき)1981年京都大学工学部卒、同年神戸製鋼所入社。鋳鍛鋼畑を歩み、事業部のある高砂製作所で工場長を経て2012年から事業部長。14年からは執行役員として鋳鍛鋼、チタン、鉄粉の素形材3部門を管掌し、16年に常務執行役員。17年6月末現職。家族は奥さんと娘2人。自宅がある兵庫県明石市と本社を置く東京・下関の移動が多く、趣味のウクレレをスーツケースにしのばせる。DIY好きで家族のリクエストを形にする工夫に思いを巡らせる。ゴルフは〝営業ゴルフ〟。59年2月生まれ。兵庫県出身。

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