【新社長インタビュー】〈日鉄住金溶接工業・妙中隆之氏〉「人材育成」「設備基盤」強化 海外の生産販売流通網を整備

――6月末の社長就任から2カ月。会社に対する印象をお聞かせ下さい。

 「近代産業の成長期から日本の溶接技術を長く世代を超えて支えてきた歴史があり、溶接に関する『豊富な技術ノウハウの蓄積』と『独自の技術』を備えている。人手不足や自動車の構造変化で一段と溶接が高度化する中、さらに業界に大きく貢献できるポテンシャルをもった会社だと感じている」

――足元の経営環境についての現状認識はどうか。

日鉄住金溶接工業・妙中社長

 「国内向けは建設や自動車を中心に堅調であり、輸出は東アジアの成長を背景に販路が拡大傾向で推移するなど着実に収益を上げてきている。一方でどこのメーカーも条件は同じだろうが、原材料コストの上昇分を製品価格に転嫁する取り組みは道半ばにあり、まずこれをやりきって次につなげたい」

――その上で掲げる基本方針は。

 「まずは『人材育成』と『設備基盤』の基礎力の整備強化に力を入れる。世代交代や設備の老朽化への対応を計画的かつ確実に進めるとともに、各分野に対する当社の競争力のコアな部分を明確にし、選択と集中によって人の力と設備装備力を強化する。その一環で来年1月の稼働予定で千葉工場のめっき槽を更新するほか、光工場でも生産能力を上げていく。社内外の研修に広く活用してもらうべく、両工場に溶接の演習場を立ち上げる」

 「また昨年創設した新ブランド『WELDREAM』シリーズの商品は市場への普及に向けた取り組みを進め、手応えが出始めている。エリアや需要分野ごとに顧客ニーズを細やかに収集し、シームレスワイヤを中心にさらなる商品開発につなげていく。計画では年内にも溶接棒やフラックス入りコアードワイヤのメニューを拡充し、鉄骨用溶接ロボットは、より利便性を高めた仕様で販売を開始する。PDCAサイクルを回すことで業界トップの品質が明確に分かる商品を提供し続け、業界の溶材品質や機器を含めて新たな溶接法などの提案を通じて業界の技術をけん引していきたい」

――海外市場への対応はどうか。

 「未開拓なエリアが多く、各方面に大きな伸び代を期待できる。東南アジアや欧州、米国などへの輸出が伸びており、効率的な生産販売流通網を整備していく。自動車向けの比率が大きいタイの工場は高稼働が続いており、能力増強の検討も視野に入ってくる。国内、海外とも一連の取り組みを踏まえ、新日鉄住金グループ内の連携をさらに強化して、各品種の鋼材と溶材、技術サービスの総合的な価値提供に力を入れていく」

――中長期的な展望は。

 「業界には浮き沈みがあるが、市場環境に左右されることなく隆々と発展できるよう業界に深く根ざし、弊社でなければならない価値の高い商品の比率を上げていく。同時に工場間で技術トランスファーの余地などを活かした国内生産の高効率化を徹底させるとともに、長期的な視点で海外供給網の在り方を検討する」

 「大入熱溶接や手直しが無い溶接方法が求められたり、高機能鋼材や異種金属との溶接が増えたりといった、我々にとって避けて通れないものづくりの難易度も確実に上がってくるはずだ。むしろこうした動きを我々の強みを活かせるチャンスと捉え、先手を打つことが大切になってくるだろう」

 「ものづくりと流通販売の双方で仕事の仕方を本来あるべき原点に回帰する部分と、やれば成果が出るけれど未実施な部分、さらにはこれから新たにチャレンジする部分などそれぞれの面で楽しみが多い。弊社グループならびに流通関係者が一丸となり、常に連携することが重要だ。座右の銘でもある『オールフォーワン・ワンフォーオール』の精神で、例外なくすべての人や一つの職場を大切にして、全体のベクトルと総力を結集させていきたい」(中野 裕介)

プロフィール

 広畑と大分、君津、釜石と会社生活の大半を製鉄所で過ごし、品質管理と製鋼、生産技術の畑を歩んだ。大学で造船工学を専攻時、接合研究所に在籍しており、今回の就任を「古巣に帰ってきたような気持ち」と語る。休日は映画鑑賞や、ジムでの筋トレや水泳でリフレッシュする。

略歴

 妙中 隆之氏(たえなか・たかゆき)1983年(昭58)阪大院卒、新日本製鉄(現新日鉄住金)入社。技術総括部一貫最適化推進グループリーダー、大分や君津製鉄所の生産技術部長などを経て、2011年君津製鉄所副所長、14年棒線事業部釜石製鉄所長、今年4月日鉄住金溶接工業顧問、6月30日から現職。大阪府出身。58歳。

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