10年後には役職定年、老後資金が不安です
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、老後資金に不安を感じる40代の女性会社員。ファイナンシャル・プランナーの平野泰嗣さんがアドバイスします。
※マネープランクリニックに相談したい方は、https://sec.allabout.co.jp/post-form/form/22 からご応募ください。(相談は無料になります)
相談者
一人の人生さん(仮名)
女性/会社員/46歳
持ち家・マンション
家族構成
子ども(大学1年)
相談内容
子供と二人生活していますが、毎月、大学の学費(10万円)と住宅ローンの返済(20万円)があり、貯蓄はほとんどありません。30歳から今の会社に入社、現在幹部社員として働いておりますが、10年後役職定年になり、働いて収入を得ることができなくなります。老後の資金がとても心配で、どのような家計のバランスで生活していけばいいのか教えてください。子供は2020年大学卒業、家を出て独立して就職する予定です。
家計収支データ
家計収支データ補足
(1)確定拠出年金について
現在の運用は、海外株式インデックス(50%)と国内株式(50%)
(2)退職金について
退職金制度があり。目安として、在籍20年で1100万円ほど。
(3)ボーナスの使いみちについて
固定資産税(2カ所分)20万円、火災保険料(2カ所分)10万円、両親へお小遣い30万円、海外旅行(年2、3回)60万円、その他レジャー費など0~50万円、残り貯蓄
(4)加入保険について
・本人/医療保険(団体保険/保険期間退職まで、入院5000円、がん入院5000円、がん診断給付金100万円)=保険料3000円
(5)所有する不動産について
◆居住しているマンション
購入価格4000万円(ファミリータイプ/築5年)
10年間の住宅ローン、残り5年、管理費と修繕金は合計2.5万円/月、
住宅ローン17.5万円と合わせて、現在毎月20万を支払っています。
(借入額2000万円、金利1.0%)
◆賃貸中マンション/3年前1200万円で購入(ファミリータイプ/築20年)。ローンはなし。現在毎月8万円の収入があるが、管理費や税金などは36万円ぐらいかかる。退職後は賃貸中のマンションに移り、居住中マンションは賃貸に出す予定。居住中マンションは大きなターミナル駅から徒歩7分、賃貸相場は約22万円。
(6)一人暮らし後の生活費について
毎月10万円程度
(7)公的年金と退職後について
去年送られてきた「ねんきん定期便」に記載している「加入実績に応じた年金額(年額)」は82万円。退職後に働く予定はなし。子供たちの教育に関連するボランティア活動に参加する予定。
(8)相続について
将来、実家は兄弟が相続する予定。
FP平野泰嗣からの2つのアドバイス
アドバイス1 公的年金と家賃収入で生活費の捻出は可能
アドバイス2 今は貯蓄できないと割り切ることも大切
アドバイス1 公的年金と家賃収入で生活費の捻出は可能
貯蓄が増えず、老後が不安というご相談ですが、不安の要素を考えると、足元の貯金残高が少なく、しかも毎年貯金ができていない。また、57歳以降の収入がなくなるため、不動産収入でやっていけるかということなのでしょう。
結論から先に言います。心配はほぼ不要と思っていいでしょう。長いスパンで見れば、まとまった貯蓄ができ、十分な老後資金が用意できると考えます。
現在の貯蓄が100万円となり、今年からお子さんの大学費用として年間120万円が発生し、さらに住宅ローンの支払いも毎月20万円ある。しかも、ご本人は役職定年となり、予定より早い退職となってしまう。ここだけを考えれば、確かに不安に感じるはず。しかし、大学費用は4年で終了、住宅ローンはあと5年で完済となります。
つまり、それ以降は年間コスト360万円を貯蓄に回すことができます。少なくとも、貯蓄が少ないという問題は、この時点で解消されます。ちなみに、退職予定の56歳のとき、退職金1100万円を加えると、4000万円の資金が手元にあることになります。
また、資産的に老後を乗り切れるかどうかという点については、実際にシミュレーションをしてみました。設定として退職後は就職せず、公的年金支給までは収入はマンションの賃貸料だけとします。また、56歳の退職時以降は、生活費は「月10万円程度」を想定されているとのことですが、基本生活費として月14万円ほど。それに加えて、自宅とマンションの関連経費、現在ボーナスから捻出しているご両親へのお小遣い、海外旅行費用など、さらに社会保険料(国民健康保険料、国民年金保険料)を加算し、年間支出を400万円程度としました。
家賃収入を相場としている月22万円とすると、貯蓄からの取り崩しは約140万円。これが65歳まで続くと、8年間で1120万円となります。さらに、家賃収入を年1%ずつ減らし、かつ何かまとまった支出があったとしても、2500万円は手元に残るはず。
一方、公的年金の支給額は、収入から類推して年165万円ほど。これに税金や社会保険料を差し引いて150万円ほどが手にできるとすると、家賃収入と年金で生活費はカバーできることになり、貯蓄2500万円は基本的に取り崩さなくて済む計算になるわけです。
アドバイス2 今は「貯蓄できない」と割り切ることも大切
もちろん、将来何が起こるかわかりませんが、シミュレーション上では、老後で資金的に困ることはあまりないと言えます。仮に、予期せぬ大きな支出があっても、ローンが完済しているマンションを2室所有しています。いざとなれば売却も可能ですし、ボランティアをしながらでも、今までのキャリアを活かせば(アルバイト程度の)ある程度の収入は、退職後も十分望めます。その点からも安心と言えます。
また、シミュレーションの設定をさらにきびしくしてみます。まず、家賃収入ですが、今は相場22万円でも、実際に貸す10年後にその額で貸すことができるかは不確定です。そこで8割に減らして17万6000円にします。また、生活水準も先の設定よりも月5万円(年60万円)増加させたとします。それでも65歳のとき2100万円、70歳のとき1600万円が手元に残っています。
ただ、レジャー費を年間50万円として試算していますが、それでも今の半分以下の額です。退職後、より時間がある中で、その程度に抑えられるかどうか。不安要素があるとすれば、その部分でしょうか。
ともあれ、今から4、5年の間が支出のピークとなります。その間は、思いどおり貯蓄できなくても、仕方がないと割り切ってもいいのでは。さらに言えば、それでも年間50万~60万円の貯蓄はできるのですから、今はそれだけで十分。過度に心配することも、無理に節約をする必要もないと考えます。
相談者「一人の人生」さんから寄せられた感想
一人で将来を考えていると、いつも上手く行かない部分ばかりが目につき、未来に対する自信を失い、気分は落ち込むばかりでした。今回専門家のご意見を頂いて、気持ちが随分と楽になり、楽しい老後を送れるように少しずつ考え始めました。しばらく貯蓄できないかもしれませんが、前向きに頑張れそう、感謝しております。
教えてくれたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)さん
ファイナンシャル・プランナー、キャリアコンサルタントとして活躍。FPの妻と2人でFPオフィス Life & Financial Clinicを創立し、「自分らしく生きること」をモットーにライフ・ファイナンス・キャリアの3つの視点でのアドバイスをする。中小企業診断士として経営者・従業員のライフプラン支援も行っている。著書に『30代夫婦が働きながら4000万円の資産をつくる 考え方・投資の仕方』(明日香出版社)。All Aboutマネーの連載『ふたりで学ぶマネー術』も人気