投手5冠も射程内…逆境克服の菊池雄星が挑む史上8人目&左腕初の大記録

9月7日、西武の菊池雄星はメットライフドームでロッテを相手に、両リーグ最多となる4度目の完封勝利を挙げた。これで今季14勝目となり、ハーラーダービーではソフトバンクの東浜巨に並ぶトップタイとなった。現時点で、菊池は投手4冠で、史上8人目の投手5冠も夢ではなくなった。

西武・菊池雄星【写真:編集部】

14勝、4完封、190奪三振、防御率2.17の4部門でトップ

 9月7日、西武の菊池雄星はメットライフドームでロッテを相手に、両リーグ最多となる4度目の完封勝利を挙げた。これで今季14勝目となり、ハーラーダービーではソフトバンクの東浜巨に並ぶトップタイとなった。現時点で、菊池は投手4冠で、史上8人目の投手5冠も夢ではなくなった。

 投手5冠とは、勝利数、完封勝利数、勝率、奪三振、防御率の5部門のこと。これをすべて制した投手を「投手5冠王」という。打者の「3冠王」ほど知られていないが、「記録の神様」と呼ばれたジャーナリスト故宇佐美徹也氏が「3冠王に匹敵する大記録だ」と言ったことから知られるようになった。投手5冠は、過去7人しか達成していない貴重な記録だ。

・1937年春 沢村栄治(巨)
24勝 7完封 勝率.857 196奪三振 防御率0.81
・1938年秋 スタルヒン(巨)
19勝 7完封 勝率905 146奪三振 防御率1.05
・1943年 藤本英雄(巨)
34勝 19完封 勝率.756 253奪三振 防御率0.73
・1954年 杉下茂(中)
32勝 7完封 勝率.727 273奪三振 防御率1.39
・1959年 杉浦忠(南)
38勝 9完封 勝率.905 336奪三振 防御率1.40
・1981年 江川卓(巨)
20勝 7完封 勝率.769 221奪三振 防御率2.29
・2006年 斉藤和巳(ソ)
18勝 5完封 勝率.783 205奪三振 防御率1.75

偉業達成の道に立ちはだかる東浜の壁

 9月7日終了現在、菊池は14勝、4完封、190奪三振、防御率2.17と4部門でトップに立つ。しかし、勝率は東浜が.778(14勝4敗)で1位、菊池は14勝6敗の.700で2位につけている。菊池と東浜は共に、あと4回ほど登板機会があるだろう。菊池は全勝が条件となるが、東浜を抜いて勝率1位になる可能性は十分にある。両者は勝利数でも14勝で並び、チームも1位と2位で争う。チームとしても個人でも「負けられない戦い」が続きそうだ。

 奪三振部門では、楽天の則本昂大が182奪三振で菊池に続いている。その差は8。今季、2桁奪三振の連続試合記録「8」を作った則本なら、菊池より1試合多く投げれば追いつく数字だ。奪三振部門でも気は抜けない。

 菊池が5冠王を獲得すれば、左投手としては史上初の快挙だ。ライオンズとしても初で、パ・リーグでは3人目となる。

 西鉄ライオンズのレジェンド、稲尾和久は、1961年に42勝(史上最多タイ)、勝率.750、奪三振353、防御率1.69の4冠を獲得した。だが、完封数は7で、東映の土橋正幸の9に及ばず、5冠王には届かなかった。投手4冠王は、その他にも1980年の木田勇(日)、1990年の野茂英雄(近)、1999年の上原浩治(巨)がいる。

 投手5冠王の7人のうち、沢村栄治、藤本英雄、杉下茂、杉浦忠、江川卓の5人は、同年にMVPを受賞している。

 今季はすでにソフトバンクに優勝マジックが点灯し、2年ぶりリーグ制覇に向けてカウントダウンを進めている。優勝チーム所属ではない菊池のMVP受賞は難しいと思われるが、シーズン中の「2段モーション」問題を克服して大記録を達成すれば、球史に残る偉業だと言えるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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