母の思いと平和への願い 空襲体験と重ね 小林多喜二描く作品上映、座間で

 「蟹工船(かにこうせん)」などの作品で知られる小説家小林多喜二の母親セキの生涯を描いた映画「母 小林多喜二の母の物語」の上映会が9月22日、座間市緑ケ丘のハーモニーホール座間小ホールで開かれる。作品には戦火をくぐり抜けた山田火砂子(ひさこ)監督(85)の平和への願いが込められている。

 三浦綾子さんの小説が原作で、寺島しのぶさんがセキ役、塩谷瞬さんが多喜二役を務める。治安維持法が敷かれた時代、官憲の拷問で多喜二を亡くしたセキの苦悩が描き出される。

 山田監督は東京都出身で、東京大空襲を経験した。今でも戦争で息子を失った近隣住民の言葉が耳を離れないという。「何もない骨に向かって拝んでいる。『悲しい。帰ってきてほしい』と。二度と人を殺し、殺される時代をつくってはいけない」と思い続けてきた。

 原作に出合ったのは2011年ごろ。多喜二を失ったセキの姿に近隣住民の姿が重なった。「一番悲しいのは母親。生かされても悲しみ続ける」 昨年9月ごろから北海道や秋田県の他、厚木市七沢の温泉旅館「福元館」で撮影を敢行。福元館は多喜二が滞在し、小説「オルグ」を執筆した場所として知られ、多喜二の通夜の場面で映画に登場する。今年2月に完成し、全国で上映されている。

 山田監督は福祉を題材にした映画を数多く手掛けてきた。今作では、貧しいながらも子どもに愛情を注ぐ母の思いを映し出した。

 危険な思想を持っているとされた多喜二は国家権力に追われたが、セキは自分の息子の生き方を理解し、温かく見守り続けた。山田監督は「作品を通じ、互いに信じることの大切さを感じてほしい」と語る。

 上映は午前10時半からと、午後2時からの2回。大人1500円、中学生以下500円。問い合わせは、現代ぷろだくしょん電話03(5332)3991。

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