元ソフトB斉藤和巳氏が「2段モーション」問題に提言 「人生が懸かっている」

シーズン終盤に差し掛かった日本プロ野球で、にわかに注目を集めたのが「2段モーション」問題だ。2006年当時、新しく適応されたルールへの対応に苦労した投手の1人が、ソフトバンクで活躍した斉藤和巳氏だ。パ・リーグ史上初となる2度の沢村賞受賞や投手5冠など、数々の実績を残した元右腕は「変えろって言われた時には、これは選手生命が危なくなるかもなって思いましたね」と、当時を振り返る。

パ・リーグ史上初となる2度の沢村賞受賞や投手5冠など、数々の実績を残した斉藤和巳氏【写真:編集部】

2006年に規制強化、対応に苦しみ「選手生命が危なくなるかもな」

 シーズン終盤に差し掛かった日本プロ野球で、にわかに注目を集めたのが「2段モーション」問題だ。西武の菊池雄星投手が、8月17日楽天戦、8月24日ソフトバンク戦で反則投球の判定を受けたことをきっかけに、各所で議論が沸き上がったことは記憶に新しい。

 そもそも「2段モーション」は、なぜ反則なのか。公認野球規則6.02で定められている「投手の反則行為」では、「投手板に触れている投手が、投球に関連する動作を起こしながら、投球を中止した場合」が反則投球と記されており、投球動作に入った後に動きが止まることを禁止している。投球動作の途中で一度足を上げてから下げ、もう一度引き上げて踏み出す「2段モーション」自体は禁止されていないが、その過程で少しでも動きが止まれば、それは反則投球だ。

 NPBでは長らく2段モーションについて“大らかな”判定がなされていたが、2005年に野球の国際化を目指す方針が打ち出された。この時に野球規則委員会は、公認野球規則8.01(a)ワインドアップポジション(b)セットポジション(2015年当時、現在は5.07)で、投手は「打者への投球に関する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない」と記されていることに触れ、「2段モーションなどは不正投球とする」という見解を発表。2006年から厳しく規制をするようになった。

 2006年当時、新しく適応されたルールへの対応に苦労した投手の1人が、ソフトバンクで活躍した斉藤和巳氏だ。パ・リーグ史上初となる2度の沢村賞受賞や投手5冠など、数々の実績を残した元右腕は「変えろって言われた時には、これは選手生命が危なくなるかもなって思いましたね」と、当時を振り返る。

西武菊池への反則投球判定には「もっと違うやり方があったのでは」

「僕は1回足を上げて止まるっていう投げ方を、中学生の頃からずっと続けていたんですよ。それまで注意されることがなかった。だから、当時は僕からしたら、右投げを左投げに変えるくらいの感覚でした。何十年って、それ以外の投げ方をしたことがないわけですから。

 体の理屈から言うと、足を上げてからボールをリリースするまで止まらずに、流れの中で投げた方が体重を前に乗せやすいんですよ。足を止めると、もう一度そこから流れを作らないといけないから難しくない?って言う人もいます。言うてる意味は分かるけど、それが僕のリズム。それを変えろって言われた時には、これは選手生命が危なくなるかもなって思いましたね。

 結びつけたくないですけど、僕はその年(2006年)のシーズン終盤から肩の調子が悪くなったんですよ。2007年も投げたけど、もう肩がボロボロ。それが原因だったかは分からない。でも、投手にとってフォームを変えることは本当に大変な作業なんです」

 今回「2段モーション」議論を再燃させた菊池投手の場合は、年々フォームが変わり、今季も開幕からシーズンが進むにつれて、足の上げ方に少しずつ変化が見られる。それでも、投球フォームは投手にとって生命線。シーズン終盤を迎えての度重なる反則投球判定に、斉藤氏は「もっと違う方法があったんじゃないか」と話す。

「コミッショナーやNPBが先頭に立って、分かりやすくしっかり説明するべき」

「雄星の場合、春先は足がそこまで止まっていなかった。そこから少しずつ変わったという話ですよね。その過程で、いろいろ忠告を受けていたにせよ、ちょっとかわいそうやなって思いますね。8月中旬のタイミングであったり、チームが激しい順位争いをしていたり。彼の野球人生のことを考えても、判定するまでには、もっと違う方法があったんじゃないかって思います。 

 もっと根本を言うと、2段モーションって何やねん、と。どこを目指してやっているのか、はっきり見えない。国際ルールに合わせましょう、という話ですけど、メジャーには、とんでもない投げ方をする人がいっぱいいる。それでも審判にだめだって判定される人は、ほとんどいませんよね。

 投球動作中に静止したらだめってことですけど、雄星とか厳密に言ったら静止はしてないですから。僕は静止してました(笑)。でも、雄星は足を2回上げるリズムがあるだけで、止まってはいない。それを言ったら、静止して見える投手は、他にもいっぱいいますよ」

 当初、審判団と西武の言い分が食い違っていたが、8月27日にNPBと西武で話し合いが持たれ、両者の見解がすりあわされたという。今回の問題は、元々「2段モーション」に関する基準が曖昧なため、立場によっていろいろな解釈が出来るが故に起きてしまった問題とも言える。今後、野球のルールがさらに分かりやすくなり、投手が安心してフォームを体得できる環境を整備するためにも、コミッショナーやNPBを中心に基準を明確化することがカギとなりそうだ。

「審判は決められたルールに沿って判定を下すだけ。こういった場合は、ルールを統括するコミッショナーやNPBが先頭に立って、当事者同士だけではなく、他の選手や関係者、ファンにも分かりやすくしっかり説明するべきでしたね。一選手の野球人生がかかっているわけですから。はっきりと明確な基準を示すことが大切だと思います」

 野球をより魅力的なスポーツにするためにも、誰にも分かりやすいルールの整備は、絶えず続けていかなければならないのだろう。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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