丸、安部、松山、小窪…10年後に実を結んだ広島カープ2007年のドラフト

今から10年前、広島東洋カープのファンは、憂鬱な気分でオフを迎えていた。

広島・安部友裕【写真:荒川祐史】

広島が10年前に蒔いた“種”

 今から10年前、広島東洋カープのファンは、憂鬱な気分でオフを迎えていた。この年は、首位巨人に19.5ゲーム差をつけられて5位。この年からセでも始まったクライマックスシリーズには出ることができなかった。そして開幕投手を務めた黒田博樹と、主砲の新井貴浩がFA宣言をした。しかし実はこの年に、今の広島躍進へ向けた大きな一手が打たれたのだった。

 この年は、高校と大学・社会人のドラフトが別の日に行われた。高校のドラフトは10月3日、ペナントレースがまだ行われている中で開かれた。この年の高校の目玉は、155キロの速球を誇る仙台育英高の佐藤由規と高校通算87本塁打の大阪桐蔭高・中田翔、そして千葉・成田高の唐川侑己だった。

 中田翔は大阪の高校に進んだが、実は広島市出身。カープ関係者と面識のある親族もいたが、広島は中田をあえて避けて、唐川侑己を指名した。しかし唐川はロッテと競合し、くじ引きで敗れる。広島は外れ1位として福岡大城東高の安部友裕を指名。安部は高校球界屈指の遊撃手として知られ、シャープな左打者としても評価が高かった。

 当時の広島・ブラウン監督は「安部は身体能力が高くてスピードもあり、ほしかった選手」と評価した。佐藤由規は5球団、中田翔は4球団が競合し、くじ引きで佐藤はヤクルト、中田は日本ハムに入団が決まった。

大学・社会人ドラフトの目玉とされた3投手は…

 大学・社会人のドラフトは、日本シリーズが中日の優勝で幕を閉じて18日後の11月19日に行われた。大学・社会人の目玉は東都大学リーグで410奪三振の新記録を打ち立てた東洋大の大場翔太と、150キロの速球が売りの愛工大・長谷部康平、そして東京六大学で通算30勝の慶應大・加藤幹典だった。

 広島は長谷部を指名するも5球団のくじ引きになり、楽天に奪われる。外れ1位として日大の長身左腕、篠田純平を指名。大場翔太も5球団の競合となって、ソフトバンクが指名権を獲得。当時の王貞治監督の笑顔が新聞に踊った。加藤幹典は、予想に反して指名が重複せず、ヤクルトが単独指名した。巨人は大体大の村田徹を指名した。

 ブラウン監督は「まだビデオも見ていないので(篠田については)よくわからない。これから考えていきたい」と率直なコメントを残した。この時点では、2007年の広島のドラフトは、せいぜい「めでたさも中くらいなり」という感じだった。しかし実は、空前の大豊作だったのだ。この時に、広島が獲得したのは以下の顔ぶれだ。

○高校生ドラフト
1巡目 安部友裕 福岡大城東
2巡目 選択権なし
3巡目 丸佳浩 千葉経大付
4巡目 中村憲 京都すばる
○大学・社会人ドラフト
1巡目 篠田純平 日本大
2巡目 選択権なし
3巡目 小窪哲也 青山学院大
4巡目 松山竜平 九州国際大
○育成
1巡目 山内敬太 名城大

当時の目玉選手の評価は変化

 10年後の今年のペナントレースの終盤戦、高校ドラ1の安部友裕は、正三塁手として打率.313、規定打席以上の打率3位につけている。ドラ3の丸佳浩はすでにNPBを代表する外野手だが、今年も打率.309で同5位だ。

 そして大学・社会人ドラ4の松山竜平は鈴木誠也の負傷欠場を受けて4番に座り、規定打席不足ながら.325を打っている。大学ドラ3の小窪哲也はカープの選手会長、代打の切り札となっている。大学・社会人ドラ1の篠田純平は先発、中継ぎ投手として2010年には6勝を挙げるも2015年で引退した。

 10年が経過して、当時の目玉選手の評価は大きく変わった。中田翔のように順調にスターに成長した選手がいる一方で、10年前の大学の目玉選手3人はすでに引退している。

 この結果を見ると、フロントの実力、スカウトの目は、時間が経たないと定まらないことを痛感する。10年前の広島のドラフトは大豊作だった。マジック2、9月14日にも優勝が決まる可能性のある広島の快進撃は、この年獲得した4人の活躍がなければあり得なかった。広島球団が蒔いた種は、10年の歳月を経て収穫期を迎えているのだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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