【新社長インタビュー】〈松菱金属工業・赤松將雄氏〉品質優位性さらに磨く 適正マージン確保課題

――社長就任の抱負から。

 「当社は新日鉄住金グループにおける特殊鋼棒線の二次加工の中核会社。新日鉄住金時代から棒線事業が長かったため、これまで培ってきた経験や知見を最大限に生かすとともに、需要先から一定の評価を頂いている冷間圧造用(CH)鋼線、磨棒鋼、素形部品の品質面のさらなる向上に努めたい」

松菱金属工業・赤松社長

 「また〝ものづくり〟の基本として、現場の安全面も最優先課題として取り組みたい。安全操業が安定操業となり、品質の安定化につながる。当社は製造現場と事務間の異動も多く、非常に開かれた会社である。ものづくりの現場から声が上がってくる、オープンで風通しの良い会社にしていきたい」

――足元の環境については。

 「自動車関連を中心に需要は好調さが続いており、下期に向けて特殊鋼棒線の供給のタイト化がさらに深刻になると危機感を強めている。これは日本の特殊鋼の〝優位性〟が高まっていることが原因だろう」

 「自動車関連を中心とした需要先がこれまで海外への現調化を進める中、国内で使用する特殊鋼の原単位は減少傾向にあった。しかし円安やデフレ下にある今の経済環境では、部品メーカーなどは海外生産の増加分について、現地生産からインフラ余力のある日本からの輸出にシフトしている。その結果、特殊鋼の原単位も増加傾向に転じたが、供給側はむしろ高炉を中心に集約傾向にあり、需給がひっ迫している」

――東洋製線からのCH鋼線事業の移管を進めている。

 「一部は羽村(本社第一・第二工場)もあるが、大半は君津事業所へ移管して伸線機も数台移設する。数量は月800トンほど。本格稼働となるのは11月ごろとみている。君津事業所は材料供給元の新日鉄住金・君津製鉄所の隣地に位置している。迅速な材料供給の立地性は強みであり、土地や建屋のスペースにも余力がある。潜在的な伸び代を期待しており、収益面でも改革を進めていきたい」

――業績の見通しについては。

 「足元の生産量は、CH鋼線、磨棒鋼、素形部品を合わせて月1万3千~4千トン。10月以降は東洋製線からのCH鋼線事業の移管分が上積みされる。数量的には増える一方、利益面では材料価格の高騰や人件費の上昇、その他資機材や運送賃など諸費用のコストアップ分を着実に価格転嫁して、適正なマージンを確保できるが課題だ」

 「昨年、自動車関連向けでは約30年ぶりに二次加工賃が改善されたが、今期のコストアップ分は到底カバーすることができない水準にある。特殊鋼棒線のサプライチェーンの一翼として、安定供給を図るためにも、原燃料などのコストアップ分を需要先に認めていただけるよう、丁寧に粘り強く理解を広げていきたい」

――中長期的な見通しについては。

 「特殊鋼のタイトな環境がいつまで続くかを見極めて、中長期的な経営戦略や投資を検討していきたい。自動車を中心とした産業構造が大きく変わらないのであれば、日本の特殊鋼の優位性は今後も存在感を高めて、需要もある程度は維持できるとみている。しかし電気自動車(EV)の普及が加速すれば、業界構造が大きく変わり、CH鋼線や磨棒鋼などの特殊鋼棒線製品の需要も大きく減るだろう。需要動向を慎重に見極めていきたい」(伊藤 健)

プロフィール

 新日鉄住金では棒線畑を長く歩み、棒線営業部時代には松菱金属工業と密接な関係を構築し、リーマン・ショック前後の急変期を乗り越えた。趣味は読書とスキーで、休日は自然豊かな山々でトレッキングやドライブをして、仕事への英気を養う。

略歴

 赤松 將雄氏(あかまつ・まさお)1983(昭58)神戸大経済卒、新日本製鉄入社、98年棒線営業部線材室長、03年大阪製鉄出向、07年棒線事業部棒線営業部棒鋼第一グループリーダー、08年棒線営業部長、14年名古屋支店長。60年(昭35)12月15日生まれ、神戸市出身。

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