【現地レポート・シリコンバレーの今】〈三菱商事・金属グループの挑戦(上)〉駐在員2人を派遣 自動車業界の変化など注視

 三菱商事の金属グループは、米国西海岸の北米三菱商事シリコンバレー支店に2人を派遣、現地社員も含めた3人体制で、社内の他グループと連携して新事業の発掘、AI(人工知能)やビッグデータ(大量データ)活用などデジタル最新技術の導入を試みている。鉄鋼・非鉄金属など金属業界に関係の深い自動車業界では、EV(電気自動車)や自動運転技術の普及が進みそうな勢いであり、「世の中の最新状況を追うことで、メタルワンなど事業会社を含めて、まずは自社がユーザーとなって最新デジタル技術の活用機会を探りたい」(同社幹部)考えだ。(シリコンバレー発=一柳朋紀)

 三菱商事は北米三菱商事シリコンバレー支店で、富士フイルムや東京海上ホールディングス、三菱電機、三菱自動車、キリンホールディングス、旭化成など業界の垣根を越えて新ビジネスを発掘する仕組みを展開している。「M―ラボ」と名付けており、金属グループを含む北米三菱商事シリコンバレー支店職員のほか、在シリコンバレーの事業投資先出向者、近隣拠点職員、前述のM―ラボ参加企業駐在員による28人がメンバーに入っている。

 共通プロジェクトとして「自動車」「リテール」「物流」「セキュリティー」などを掲げ、各社固有のテーマを抱えつつ「企業間の壁を越えた連携を促進し、柔軟性とスピード感を持って事業の種を創出する場」(柳原恒彦執行役員・北米三菱商事副社長)と位置付けている。

 また金属グループは支店の近隣にあるスタンフォード大学が展開する「d・スクール」のデザイン・シンキング(デザイン思考)スクールへ社員を派遣。イノベーションを起こすプロセスを学び、社内での活用も一部で試みている。

最新技術の活用探る

 最新技術によって変化が顕著な代表例は自動車業界。IT業界のアップル、グーグル、フェイスブックなどが本社を構えるシリコンバレーでは、米国内でも突出して最先端技術が急速に浸透している。自動車業界で今や全米ナンバーワンの時価総額となったテスラが象徴的だが、従来のOEM(組み立て)メーカーを頂点としたピラミッド型の「ハードウェア製造販売ビジネス」モデルから、価値観が大きく変貌しているのが現状だ。

 シリコンバレーではEV(電気自動車)をあちこちで見かける。シリコンバレーに本社を構えるテスラ社は既に年間7万台程度の生産規模を持つ。今年1~6月の生産台数実績は5万1126台だった。

 これまでに発売した2車種は日本円で1千万円超の高級車だが、7月に発売開始された「モデル3」は日本円で500万円程度。すでにテスラには50万台以上の事前申し込みが寄せられていると発表されている。テスラのほか、保守的なメーカーのGMもEV車「ボルト」を発売し、BMWなど欧州勢もEV車を販売。グーグルが生産する自動運転車の「WAYMO」も街中を走っている。

 現在のテスラの自動車にも、自動運転機能が付いている。走行データがテスラに送られて蓄積されており、テスラはそのビッグデータを活用して搭載ソフトウエアを頻繁に書き替えていく。

 テスラの所有者は、スマホのアプリをアップデートする感覚で、テスラのソフトを月1回程度アップグレードしている。つまり車体のハードはそのままで、ソフトが改善していくイメージだ。従来の顧客はモデルチェンジごとにハードを買い替えざるを得なかったが、テスラは細かい改良点を迅速にソフトウエアに反映する。「ソフトウエアがハードウエアを支配する」(イーロン・マスクCEO)思想を持っている。

 年1700万台規模の米国車市場で、現時点でのEV車シェアは微々たるものだが、破壊的なイノベーションにより急速に普及する可能性もありそうだ。ガソリン車の部品点数は約3万点だが、EVは約7千点にとどまる。自動車業界への新規参入企業が出てくる一方で、自動車業界との接点を失う企業が出かねない状況にあると言える。

 産業構造の変化やサプライチェーン(バリューチェーン)の変化が想定され、日系企業も含めた多くの企業がシリコンバレーに拠点を構え、動向を注視している。

 EVと歩調を合わせて浸透している自動運転技術。テスラは「レベル2」と呼ばれる段階までに対応している。「WAYMO」でいち早く自動運転車を世に送り出したグーグル社は、フィアット・クライスラー社との提携により同社の車を改良した新型車によるロボットタクシーサービスを、早ければ2017年内にも発表するという報道もある。

 日本では東京五輪開催に合わせた20年に自動運転車が披露される予定になっているが、業界内には「2年間の遅れが、帰趨に影響する可能性もあるのでは」との見方もあり、日系自動車メーカーの最新動向にも注視が必要と言えよう。

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