「県警の歴史で最も難しい事件の一つ」 横浜・病院点滴連続殺人1年

 横浜市神奈川区の大口病院で昨年9月、入院患者2人が中毒死した点滴連続殺人事件は23日、県警が神奈川署に特別捜査本部を設置してから1年になる。特捜本部は病院関係者が関与した疑いが強いとみているが、決め手となる物証に乏しく、捜査は長期化している。

 事件では、昨年9月20日未明、4階に入院していた同市港北区の無職男性=当時(88)=が死亡。点滴袋の液体が泡立っていたため病院が神奈川署へ通報し、司法解剖の結果、同23日に中毒死と判明した。遺体と点滴袋からは、殺菌作用が強い界面活性剤の成分が検出された。

 その後、同18日に亡くなった同じ病室の青葉区の無職男性=当時(88)=の遺体からも同じ成分を検出。4階ナースステーションで保管されていた未使用の点滴約50袋の一部からも界面剤が検出されたことも分かった。またナースステーションには医療機器の消毒などに使われ、界面剤を含む消毒液「ヂアミトール」が置かれていた。

 特捜本部は、点滴袋のゴム栓の保護膜に針を刺したような穴が見つかったことなどから、医療知識がある人物が注射器でこの消毒液を混入したとみている。一方、界面剤が検出された点滴袋には2人とは別の患者に使用予定のものも含まれており、混入が無差別だった可能性もある。

 県警はこれまでに延べ9076人の捜査員を投入。看護師ら病院関係者を中心に延べ1956人から事情を聴くとともに、使用済みの点滴袋や管、注射器などの医療廃棄物を押収し、残留物の鑑定を進めてきた。

 しかし、決定的な物証は出てきていない。

 界面剤が検出された点滴袋は無施錠で保管され、捜査関係者は「病院関係者の指紋が出て当たり前」と話す。4階には常時複数の職員がいたものの、有力な目撃証言はなく、当時防犯カメラは設置されていなかった。

 事件の特殊性も捜査を難航させている。捜査関係者によると、界面剤が点滴で人体に混入された事件は過去に例がないため、致死量の基準がないことに加えて、混入された量の特定も難しいという。殺意の立証にはハードルが多く、捜査関係者は「県警の歴史でも最も難しい事件の一つ」と話している。

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