【下期の薄板需給展望】需要堅調、供給制約でタイト化加速 輸入材上昇、原料に先高観

コスト・需給両面で価格上昇局面

 来週から下期に入るが、ここ数週間で薄板中心に需給タイト感が急速に強まっている。特殊鋼棒線のタイト感も相当強く、一部にはデリバリーを懸念する声も上がるほどだ。需給、コストの両面から価格上昇局面にある下期の鉄鋼市場を展望する。(一柳 朋紀)

需要面

 国内の自動車生産台数は想定を上回って高水準で推移しそうだ。高炉メーカーの現時点での見方は通期950万~960万台(下期485万~490万台)となっているが、自動車メーカー各社の積み上げベースでは下期510万台。上期実績が470万台とすると単純合算で通期980万台にも達する。

 KD生産を見ても、上期・下期ともに前年比2%増の見通し。特殊鋼棒線が極めてタイト化する要素となっている。

 自動車分野では、海外向け需要もかなり旺盛。アセアンや中国向けに、事業会社向け原板輸出を含めて数量が伸びており、薄板需給タイト化の大きな要因になっている。アセアンではタイやインドネシアが復調して自動車生産は前年比プラスに。世界最大市場の中国では日系車のシェアが上昇(16年実績15・6%→17年1~8月は17・9%)している。

 建材分野は東京五輪関連需要もあり、非住宅中心に建築分野は底堅い動きとなっている。

供給面

 東アジア市場を見渡すと、CSCは第2熱延ミルの改修工事に続き、第3高炉の巻き替え工事が10月1日から始まる。ポスコも10~11月、光陽製鉄所の熱延ミル改修工事を予定。国内ではJFEスチールの京浜地区転炉トラブルによる減産に加え、他高炉では熱延や酸洗槽の更新等の工事などがあり、コンスタントな大型設備工事が供給制約になる。

中国

 中国では、10月1日から大型連休の国慶節が始まり、当面の商いは乏しくなると予想される。季節要因としては需要減の時期に入るが、一方で冬季の大気汚染対策で減産規制が入ることや、本渓鋼鉄第1高炉の火災を受けた国務院による安全点検強化を受け、需給は均衡するとの見方が有力だ。

 とはいえ、やはりアジア市場のリスク要因は中国にありそう。統計枠外の地条鋼生産が統計内の生産に置き換わったことによる生産増もあり、在庫水準は適正水準で推移している。

 一方、足元の高水準の生産が先高観からくる「仮需」込みだとすれば、市況が崩れた場合に在庫の換金売りなどが起きる可能性がないわけではない。中国の需給バランス動向は引き続き注視していく必要がありそうだ。

コスト

 メーカー、流通にとって、コスト高要因は目白押しだ。

 主原料価格は当初、上期と下期の比較でトン数千円下がると予想していた関係者が多かった。ただスポット価格は想定を上回る価格で推移し、ここにきて原料炭が200ドルを超えるなど先高観が根強い。「下期は主原料価格が大きく下がることはない」とみておいた方が良さそうだ。

 副原料は軒並み上昇基調。亜鉛は10年ぶりの3千ドル台へ。マンガンや錫なども上昇し、世界的に資源価格は上がっている。鉄スクラップも上昇しているほか電極や耐火物原料などコストアップ要素が目立つ。

 人手不足からくる物流コストの上昇はメーカー・流通など幅広い業種の共通課題。川下への転嫁を通じ、広くユーザーに負担を求める動きが加速しそうだ。

鋼材価格・輸入材

 東アジアミルは軒並み供給タイトな状況にある。引き受けカットや納期調整を行っており、全ての注文に応えられる状況ではない。

 対日輸入材の動向を見ると、主要ソースのポスコとCSCは、直近底値の昨秋から2万円を超える値上げを進めている最中。中国から韓国への流入鋼材の減少を背景に、韓国ミルの輸出余力は乏しくなっているなど、両社とも今秋にはさらにタイト感が強まる見込みだ。日本の需要家向けに数量減を申し入れる動きも見られ、価格重視の姿勢を鮮明にしている。

 中国製熱延コイルは、足元のオファー価格でコイルセンター持ち込み換算7万円台前半。前回オファーから6千円以上値上がりした。市中の中板価格をも上回っており、コイルセンターなど流通筋は購入を控えることになりそうだ。中国ミルもロールがひっ迫し、中国国内価格が高いことから、積極的に輸出する状況ではない。

 日本高炉も原料の先高観、タイトな需給から価格改善への姿勢が一段と強まる。「課題となっていた再生産可能な価格水準の実現ができる環境に、やっとなりつつある。ずっと危機感を持ってやってきたが、今こそやらなければ」(高炉幹部)と不退転の決意で臨んでいる。

 薄板3品に加え、原板価格の上昇を受けて、これまで動きがやや遅れていた薄板二次製品も価格転嫁の動きが本格化し始めた。問屋・流通では、自動車メーカーの支給単価下落観測から当用買いに徹し、手持ち在庫が減っているところも少なくない。

 流通の一部には、売り惜しみや買いあさりの動きも散見される。

 車メーカーの国内支給価格が下がる中で、鋼材市況は上がるという局面になりそうな下期の展望。鋼材価格はグローバル要因で決まることが強く意識される時期になりそうだ。

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