【工場ルポ】〈多様な事業の複合拠点・日本軽金属蒲原製造所(3)富士川第二発電所〉最大出力5万キロワットの主力発電所、水力で所内に電力供給

 蒲原製造所は国内のアルミ圧延メーカーとしては珍しく、水力発電所を保有することでも知られている。水力発電設備は富士川の中・下流域にわたって、雨畑ダム・柿元ダムの高堰堤、槫坪・波木井川・塩之沢・十島の低堰堤、導水路および6カ所の発電所で構成されており、合計14万2500キロワットの出力を有する。水力発電のみで約17万世帯の電力をまかなうことができる規模は、電力会社以外の民間企業では別格のJ―POWER(電源開発)、JR東日本に次ぐ3番目の発電能力だ。

 六つある発電所のうち波木井発電所は1939年に建設された日軽金最古の発電所で、これが稼働した翌年に蒲原製造所が操業を始めた。発電所はアルミ製錬事業が拡大していく中で規模を拡張。現在の富士川第一発電所、富士川第二発電所、波木井発電所、佐野川発電所、本栖発電所、角瀬発電所の6発電所体制に増強されていった。

 このうち波木井発電所や41年に完成した富士川第一発電所、富士川第二発電所は、それぞれが専用の水路で連結されており、上流で放水した水を下流の発電所で再利用できる仕組みとなっている。

 一方で52年には佐野川発電所の上流に柿元ダムを設置。富士川水系が水不足に陥った際でも安定的に電力を供給できる体制を整えている。また国立公園に指定されている本栖湖から水を流し込む本栖発電所は、本栖湖の水位が一定に達しない場合は放水できないという特徴もある。

 富士川第二発電所は蒲原製造所の西側に立地している。最大出力4万9500キロワットの発電能力を持つ日軽金最大の水力発電所だ。発電所3階には六つの発電施設を一括管理するオペレーションセンターが配置されている。電力事業には土木課など三つの課があり、約100人が籍を置く。

 発電所に入ると目の前に三つの立軸フランシス水車が並ぶ。製造所裏手の丘との落差を利用して発電する形式の発電設備だ。この水車の直下には水路が通っており、落下してきた水がガイドベーン(羽)を通過することで水車が回転し発電する。ここで発電に使用された水は、放水路を通じて650メートル先の駿河湾に注がれているが、一部は工業用水として富士・清水地区の工場で利用されている。

 操業当初は直流発電機4基体制を採っていたが、電解製錬事業の縮小を受けて交流発電機3基体制に改めた。ここで造られた電力は蒲原製造所の各工場に利用される。電解製錬事業が終了した後も、電極箔事業やケミカル事業で多量の電力を使うため「各工場の操業状況により中部電力から購入することもある」(大澤一之蒲原製造所総務課長)という。

 創業当時から蒲原製造所のコスト競争力向上に寄与してきた発電所だが、長いものでは75年以上にわたって使用している設備もある。例えば第二発電所裏手の圧鉄管は稼働当時のものだが、入念なメンテナンスに加えて東洋アルミニウムのステンレスフレークによる塗装材「サビコナーズTM」を塗布することで耐腐食能力を引き上げている。また各発電所の水車は6年に1度の頻度でオーバーホールするため、更新時に最新機材への切り替えを実施。今年度は波木井発電所の改修工事を予定するなど、修復や点検に余念がない。

 今後も蒲原製造所の〝縁の下の力持ち〟として工場運営を支えていく発電所だが、環境への配慮も欠かしていない。使用する水が汚い場合、水車部品の磨耗スピードが速まるという問題もあるが、「何より放出する水に油などを混入させない」ということに注意を払う。駿河湾までの放水路には野生のカワウも生息している。こうした環境を守るのも、製造業の使命と考えているようだ。(遊佐 鉄平)

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