【新日鉄住金グループ主要5社】新日鉄住金 発足5周年 グループ企業の事業展開

 新日鉄住金は2012年10月の発足を機に、グループ会社の再編・統合、グループ内での事業集約などを積極的に進めてきた。統合効果を高めるとともに、グループ全体での競争力を向上させるためだ。連結子会社や持ち分法適用会社などのグループ会社は、新日鉄住金発足時で約880社(旧新日鉄=600弱、旧住金=約300)あった。その後、再編・統合が進んだ一方、海外グループ会社の増加もあって、今年4月時点のグループ企業数は国内外で約830社となっている。

新日鉄住金エンジニアリング/設備技術原点に多様な事業/鋼材の用途拡大にも貢献

 新日鉄住金エンジニアリングは1974年に旧新日本製鉄のエンジニアリング事業本部として発足。2006年に新日鉄エンジニアリングとして分社・独立した。12年10月の新日鉄住金発足に伴い、社名を新日鉄住金エンジニアリングに変更。併せて、新日鉄エンジ子会社の日鉄住金パイプラインと住友金属工業子会社の住友金属パイプエンジの統合により、日鉄住金パイプライン&エンジニアリング(日鉄住金P&E)が発足している。

東京・大崎の本社ビル

 分社以来、新日鉄住金グループのエンジニアリング企業として長年培ってきた鉄の設備技術などをベースに製鉄プラントや環境・エネルギー関連プラントの建設・施設運営、鋼構造技術を活用した海洋鋼構造物、建築物、パイプラインの建設など多様な領域で事業を展開。国内外で数多くのプロジェクトを手掛け、各国の産業基盤や社会インフラの発展に貢献するなどその存在感を高めてきた。

 足元の事業環境は厳しいが、今年度は受注額も3千億円台に回復する見通し。「17年度がボトム」(藤原社長)と捉え、変えるものと維持・強化するものを明確に事業を推進していく構え。昨年には世界初となる大規模沖合養殖システムの商業化に向けた取り組みを開始。〝エンジニアリング魂〟による新たな事業開拓に一歩踏み込んだ。昨夏に策定した『2020戦略目標』では(1)ソリューションビジネスの深化(EPC×Solution)(2)海外の成長地域での展開(Global×Local)(3)機動的な外と内の連携(External×Internal Networking)を標榜し成長戦略を描く。

 (1)では、IOTやICTなどの最新技術を駆使してO&Mやソリューションを提供することで顧客との繋がりを深化させ次のEPCにも繋げていく。(2)では、地域に根差した事業展開の推進を図るべくナショナルスタッフの育成・登用を積極的に推進。プロジェクトマネジメントのグローバルスタンダードである「PMBOK」の考え方も導入し、プロジェクトマネジメント力の向上と海外プロジェクトの対応力強化を図る。(3)については、社内の事業部間連携のみではなく顧客やパートナーとのネットワークを積極的に構築。新たな価値や事業の創出に繋げていく。

 足元、世界的に粗鋼生産量が供給過剰傾向にある中で当面は製鉄設備の新設や能力増強の大型投資は期待できないとの見方が強い。こうした中、プラントエンジニアリングのプロ集団として国内外での豊富な実績を生かしながら、環境対策やコスト削減、品質向上のニーズに応えることで新日鉄住金グループの製鉄事業へ貢献する。また、新日鉄住金の建材や鋼管、厚板、プロジェクト開発部門などと密に連携しており、直近では日鉄住金P&Eの水素ステーションに新日鉄住金の高圧水素用ステンレス鋼「HRX19」を採用するなどシナジーを発揮している。今後もエンジニアリングの視点から付加価値のある提案や開発を行うことで鋼材の利用技術や用途を拡大し、グループへの貢献を果たしていく方針。

企業概要

 ▽本社=東京都品川区

 ▽資本金=150億円(新日鉄住金100%)

 ▽社長=藤原真一

 ▽売上高=2675億円(17年3月期連結)

 ▽主力事業=製鉄プラント、環境ソリューション、エネルギーソリューション、海洋鋼構造、建築・鋼構造、パイプライン

 ▽従業員=1171人(17年3月末時点)

新日鉄住金化学/タール蒸留能力、国内首位/技術立社、機能材料などに磨き

 新日鉄住金化学(NSCC)は旧八幡製鉄の化工部門を源流とする化学メーカー。1956年に分社化して発足、60年以上にわたり、石炭化学を中心に事業展開をはかってきた。2004年には旧新日本製鐵、旧住友金属工業両社のタール関連事業を統合した子会社シーケムを設立。同社のタール蒸留能力は現在、年間約90万トンと国内最大だ。NSCCは製鉄所で副生した原料を生かし、炭素製品や化学品といった基礎素材を製造。副生品に付加価値をつける役割を担うとともに、副産物の活用につなげるという「環境企業」でもある。

コールケミカル・機能材料の製造拠点、九州製造所

 昨年4月に就任した太田克彦社長は今年の仕事始め、「世界で評価される先端技術製品を世に問おう。イノベーティブで魅力的な会社にしよう」と社員に呼びかけた。

 同社が「技術力」を前面に出すのは、技術開発力の高さでいくつものヒット商品を世に出してきたからだ。

 代表的なのが「エスパネックス」の商品名で知られる回路基板材料。銅箔とポリイミド樹脂による積層板で、液晶ディスプレイ材料の「エスファイン」、有機EL材料の「ルミエース」と並ぶ機能材料事業のヒット商品だ。二つ折り携帯電話の普及とともに販売が増加。最近ではスマートフォン(スマホ)など携帯電子機器を中心に幅広く採用されている。

 昨年は、エスパネックスの開発・商品化が高く評価され、「大河内生産特賞」を受賞し、今年はエスファインが「市村産業賞」に輝いた。太田社長は「技術力の高さが世界的に認知された証」と胸を張る。機能材料事業はユーザー業界のニーズが急速に変わることも多い。こうした波を乗り越え20年にわたり品質、競争力を強化してきた努力が報われたといえる。

 コールケミカル事業の中核子会社シーケムは蒸留したタールを原料に各種の炭素材料を製造・販売する。代表品種が電炉用黒鉛電極の主原料となるニードル(針状)コークスだ。ニードルコークスには石炭系、石油系があり、シーケムは石炭系の有力メーカー。一般的には石油系が高品質品とされるが、シーケムは石油系と同等の石炭系コークスを市場投入しており、ユーザーから高い評価を得ている。

 子会社の新日化カーボンが手掛けるタイヤ原料のカーボンブラックとともに、ニードルコークスでも中国に進出。現地の電極メーカーとの合弁会社は今年、稼働を本格化させた。

 17年3月期の連結売上高は約1742億円。主力3事業分野の構成比は化学品約57%、機能材料・エポキシ樹脂約24%、コールケミカル約19%。一方、同期の連結純利益は42億円で、16年3月期の赤字計上(59億円)から黒字転換を果たした。18年3月期はコールケミカルの事業環境好転もあり、前の期を上回る利益計上を見込む。18年度からの新中期に向け、地に足のついた成長戦略を描く方針だ。

 課題となるのが新たな事業の育成。「技術力をベースに石炭化学と機能材料の両輪で成長していくのが基本」(太田社長)としつつ、エスパネックスなどに続く、第4、第5の柱を育てたいという。

 研究開発スタッフを独自にそろえているうえ、新日鉄住金の研究所と交流できることがNSCCの強みでもある。太田社長は「研究開発力やモノづくりの精神を最大限に活用して、新たな柱をうちたてたい」と意欲をみせる。

企業概要

 ▽本社=東京都千代田区

 ▽資本金=50億円(新日鉄住金100%)

 ▽社長=太田克彦

 ▽主力事業=コールケミカル、化学品、機能材料

 ▽売上高=1742億円(17年3月期連結)

 ▽従業員=1795人(16年3月時点)

新日鉄住金ステンレス/独自製品を「ソリューション拡販」/日新製鋼との事業シナジー創出へ

 2003年10月。新日本製鉄と住友金属工業のステンレス事業統合で新日鉄住金ステンレス(NSSC)が発足した。慢性的な赤字事業部同士の統合であり、社員は最初から転籍で、大きな不安もあったはずだが、旧両会社の出身者が一丸となって、「よし、やってやろう」という気概は社内に充満していた。

光製造所・製鋼工場

 統合時に薄板・厚板7ラインの休止を決めた一方、その統合効果が出る前の初年度黒字化を必達目標としたが、発足直前からニッケル価格の上昇が勢いを増し、いきなり窮地に立たされた。これに対し製造現場はコスト改善を超過達成し、営業は流通に対する後仕切りの廃止や国内初となるアロイリンク方式の市場への定着を急いだ。在庫評価益もあったが初年度(半期)連結経常利益40億円の結果を出し、社内の信頼感、一体感は高まった。

 04年秋には国際標準を踏まえ板厚エキストラを引き下げ、07年度上期には流通口銭体系を定率方式から定率・定額併用方式に変更。また毎月店売り価格を公表、需給改善のために率先して減産する姿勢を度々示すなど、NSSCの有言実行は、国内の過当競争に終始していた業界の変革に大きな影響を及ぼした。

 業績面ではニッケルバブル期の06年度に連結経常利益394億円を上げたが、ニッケルバブル崩壊後の08年度決算は連結経常赤字343億円。その後、リーマンショックに伴う需要急減の経験を経て、在庫圧縮などを通じてステンレス事業に潜むリスクへの耐性を高めた。一方、アジア勢が台頭し過剰能力問題が顕在化する中、顧客ニーズにきめ細かく対応する高付加価値の独自製品を開発しソリューション拡販を進めて製品構成を改善し、活路を拓く方向性をはっきり見定めてきた。

 付加価値が高く、レアメタルの使用量を減らした独自製品開発の代表例が高純度フェライト系薄板「FWシリーズ」であり、厚板を中心に薄板などにも展開する省合金型二相鋼「NSSC2120」だ。FWは旧住金の 〝フェライト系ステンレスに有効な錫の微量添加〟という知見と旧新日鉄の〝高純度フェライト系製造技術〟の組み合わせで誕生した。

 FWも2120も上市したのは市場環境や収益状況が厳しい時期。二相鋼拡大を狙い、八幡製造所で厚板の酸洗設備や大型レベラーの導入を決めたのも苦しい時期だったが、その決断が今に生きている。

 現行中期計画(15~17年度)では、従来年間50億円規模だった設備投資額を5割拡大している。安全・環境・防災と設備保全の対策を強化しているためだ。今上期の連結経常利益は80億円以上、下期は上期以上の見通しで、積極投資にも関わらず有利子負債は大幅に減り、D/Eレシオは中計前の1・0から0・2に改善している。

 新日鉄住金による日新製鋼の子会社化でステンレス事業のシナジー創出も注目される。伊藤仁社長は「新日鉄住金グループのステンレス事業には大きな宝の山がある。日新製鋼と当社が混然一体となって実現していきたい」と語り、「日新製鋼とは、販売・製造・研究の各部門で当社が発足以来経験した以上のことが期待できる」と、次世代自動車をはじめ、幅広い分野での共同研究にも期待を寄せている。

企業概要

 ▽本社=東京都千代田区

 ▽資本金=50億円(新日鉄住金100%)

 ▽社長=伊藤仁

 ▽売上高=2195億6400万円(17年3月期連結)

 ▽主力事業=ステンレス薄板・厚板・棒線

 ▽従業員数=1555人(17年4月1日時点)

新日鉄住金マテリアルズ/先端素材、ニッチ市場で存在感/海外拠点広げ需要捕捉

 新日鉄住金マテリアルズ(NSMAT)は電子部品向け極薄金属箔などを手掛ける先端素材メーカーだ。2006年に旧新日鉄の新素材事業部が分社・独立し発足。新日鉄住金本体の研究開発部門で生まれた開発シーズ(種)や基礎技術を応用し時代の先端を走るユーザーニーズに対応している。

ハードディスクのサスペンション(ハッチンソンテクノロジー提供)

 事業領域は主に(1)半導体・電子産業部材(2)産業基礎部材(3)環境・エネルギー部材――の3分野。「先端素材で未来を創る」が合言葉だ。手掛けるのは製鉄事業で培われた要素技術を活用した商品群だが、いずれも狙いを定めるのは製鉄事業とは一線を画すニッチ(隙間)市場。山田健司社長は「大きな市場より得意分野で高いシェアの獲得を目指す。差別化商品をいかに提供できるかが重要だ」と話す。

 世界的に高いシェアを誇る主力商品の1つがハードディスクドライブのサスペンション向け極薄ステンレス箔だ。サスペンションはデータを読み書きするための電子部品。製造にはステンレスの板を約15ミクロン(1ミクロンは1千分の1ミリメートル)まで均一に薄くする高度な技術が欠かせない。製鋼から箔化まで新日鉄住金グループの一貫品質管理のもとで高品質を実現し、世界シェアは実に約8割を維持している。

 極薄ステンレス箔は、他の用途にも広がりをみせている。リチウムイオン二次電池の外装材、集電体向けとして二次電池の小型化ニーズに対応。開発・評価を推進中だ。主流のアルミ箔より薄くても必要な強度を保てるため、ユーザーから二次電池の小型化と安全性を同時に実現できると高い評価を受けているという。スマートフォンに内蔵するばね材の高強度ステンレス箔も新規用途として今後の伸びが期待される。

 素材革命と呼ばれた画期的な商品もある。子会社の日鉄住金マイクロメタルと新日鉄住金・先端技術研究所が07年に共同開発したLSI(大規模集積回路)用高機能銅ボンディングワイヤ(配線材)「EX1」。1950年代のトランジスタ発明以来、ボンディングワイヤの素材には一貫して金が使われてきた。この素材を低コストの銅に転換。競合他社も挑み続けた「脱金化」と高機能化の両立を先陣を切って実現した。線径は髪の毛の5分の1ほど(15~30ミクロン)という極細商品だが、世界トップシェアの存在感を放つ。

 日系ユーザーの海外シフト対応や新興国市場の開拓を狙いに海外拠点も広げている。発足初年度の06年度に10%だった海外生産比率(売上高ベース)は16年度で40%に、日本からの輸出も含む海外売上高比率は30%から70%に高まった。

 海外拠点は中国やインドネシアなど8カ所に構える。伸びる需要を海外拠点で着実に捉える一方、国内拠点は高付加価値品の生産や商品・プロセス開発を進めるマザー工場に位置付け、競争力に磨きをかける。

 業績はここ数年、経常利益が20億~30億円程度で推移している。経営基盤のさらなる強化に向け「収益の柱になるような商品をさらに増やす」(山田社長)方針だ。

企業概要

 ▽本社=東京都中央区

 ▽資本金=30億円(新日鉄住金100%)

 ▽社長=山田健司

 ▽売上高=345億円(17年3月期連結)

 ▽主力事業=半導体・電子産業部材、産業基礎部材、環境・エネルギー部材

 ▽従業員数=1404人(海外現地法人含む、17年3月末時点)

新日鉄住金ソリューションズ/〝鉄のDNA〟受け継ぐIT集団/顧客の競争力強化「成長の糧」に

 新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)は、旧新日鉄の情報システム部門をルーツとする情報システム企業だ。1960年代、黎明期のIT(情報技術)にいち早く着目。24時間365日休むことのない製鉄現場を約50年にわたってITで支えながら技術を蓄積してきた。〝鉄のDNA〟を受け継ぐITのプロ集団として現在も新日鉄住金を支える一方、製造業や流通業、金融業など幅広い業種にソリューションを提供する。

あらゆる機器や人をネットでつなぐ「IoX」導入支援サービスも展開

 国内システム投資の伸びを追い風に業績は好調だ。2018年3月期は経常利益230億円と、4期連続で過去最高益を見込む。増収は8期連続、増益は6期連続になる。売上高に占める新日鉄住金向けは約2割と決して多くない。製造、流通・サービス、金融、公共など各分野の収益をバランスよく伸ばす強固な事業ポートフォリオが着実な成長の要因だ。

 ビッグデータや人工知能(AI)、IoTといったデジタルイノベーションの波が押し寄せる中、さまざまな企業が経営革新を図ろうと攻めのシステム投資を積極化。サイバー攻撃対策という守りの投資もあいまって、当面は堅調な事業環境が続く見通しという。

 新日鉄住金発足から丸5年。前身2社の主要なシステム統合は17年3月までにほぼ完了した。このシステム統合を支えてきたのもNSSOLだ。新会社発足日の12年10月1日に本稼働するシステム群を対象とした「Day1」、それ以降に本稼働するシステム群の「Day2」という2段階でプロジェクトに対応。謝敷宗敬社長は「今後の競争力強化を考えるための土台が整った。このタイミングを待っていたかのようにデジタルイノベーションの波が到来し、技術を引き上げるチャンスだ」とさらなるシステム高度化に意欲を燃やす。

 旧住金のシステム業務については、今年3月に旧住金系のシステム会社、アイエス情報システムの株式を買い取り、4月には社員も移籍して全業務移管を完了した。

 新日鉄住金の今後のシステム対応では、国内外に広がる生産拠点をあたかも1つの製鉄所のように把握できるバーチャルワンミル(仮想一貫製鉄所)構想が大きなテーマの1つになりそうだ。新日鉄住金は旧2社の国内拠点だけで12製鉄所16拠点を構える。こうした多ミル体制の強みをより強くするにはシステムの高度化がカギになる。

 NSSOLは今、次の成長を目指して新たなビジネスモデルの創出にも力を入れる。日本企業にとって攻守両面でITの重要度が増す一方、少子高齢化でIT人材の確保は難しい。「この構造的な問題をどう解決に導くか」(謝敷社長)が新たなビジネスモデルのコンセプトだ。

 顧客企業のIT機能を全面的に引き受けるアウトソーシング事業と、逆に顧客企業にITの専門家を派遣するインソース事業という2つのパートナー型事業を推進。さらにIoTやAR(拡張現実)なども活用し、遠隔地から現場作業員の安全を見守るシステムや生産設備の予防保全を効率的に行う「スマートファクトリー(賢い工場)」なども提案する。

 合言葉は「ともに、その先の答えを」。顧客企業の競争力強化がさらなる成長の糧になる。

企業概要

 ▽本社=東京都中央区

 ▽資本金=129億5200万円(新日鉄住金54・75%)

 ▽社長=謝敷宗敬

 ▽売上高=2325億円(17年3月期連結)

 ▽主力事業=情報システムのコンサル・企画・開発・運用・保守

 ▽従業員数=5931人(17年3月末時点)

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