【新日鉄住金の経営戦略】〈進藤孝生社長に聞く〉「造る力と売る力、再構築」 品種事業戦略「精緻に見直し」

――まずはマクロ経済の環境認識から伺いたい。

 「世界を見渡すと、今は政治的リスクが高い状況にある。中国の習近平政権の2期目のかじ取りの行方、北朝鮮情勢、米トランプ大統領の政策、欧州の難民問題など不透明要素が多いが、幸いなことに経済は各国とも強い。日本は底堅く、米国・中国も好調だ。欧州も手堅く成長しており、経済成長率を含む経済環境は良好な環境にある」

――鉄鋼需給はどうでしょう。特に日本にも影響の大きい最大市場の中国について。

 「中国は毎月、粗鋼生産が増えている中で、鋼材価格は上昇を続けている。内需が旺盛で輸出に出てきておらず、(輸出は前年比で)3割ぐらい減っている。違法な地条鋼が淘汰されていることもあって過剰能力削減が進んでおり、需給改善は今のところ良い方向に進んでいる」

新日鉄住金・進藤社長

――懸念点は。

 「米トランプ政権の保護主義には強い懸念を持っている。通商拡大法232条による鉄鋼製品の調査は継続中だが、仮に232条を発動してカナダ、EU、トルコなどに関税をかければ、逆に別の産業で報復を受ける可能性が高く、保護主義の連鎖が起きかねない」

――総合的に見ると良好な事業環境にあると言えそうですね。

 「日本の鋼材需要もここにきて一層強くなっており、底堅い状況だ。楽観はできないが、良い状況にあると考えている」

――そうした中で、足元の経営課題は。

 「一言で言えば、造る力と売る力の再構築が課題だ。言い換えれば技術力と営業力のさらなる強化。造る力とは、旺盛な需要に対して、設備トラブルや操業トラブルなく操業して安定供給していくことだ。新日鉄住金発足以来の5年間を振り返っても、2014年秋の名古屋コークス火災、15年から16年にかけての重大災害多発、17年1月の大分厚板ミルの火災、それ以外にも小トラブルが多発するなど、造る力がまだまだ不十分と言わざるを得ない」

――名古屋のコークス事故などを受けた現行中期経営計画(15~17年度)で「設備と人の再構築」を掲げていますが。

 「造る力と売る力の再構築も、本質は同じことだ。これまでも進めてきているが、さらに推し進めていく必要がある」

 「設備のリフレッシュを含めた鉄鋼事業の設備投資は中期の3年間で1兆1千億円、修繕費も増投入している。人の面でも、採用人数は年1300人と大幅に増やして中期の3年間で3900人(スタッフ系と現場の技能系の合計)。現場も相当若返っているので教育にも力を入れている」

 「一生懸命取り組んでいるが、まだ結果が伴っていない。もう少し時間がかかるが、いずれ必ず結果が出てくると思っている」

――売る力については、どういう問題意識を持っていますか?

 「この1年、原料価格が乱高下したが、お客様に対して状況をきちんと説明し、我々の商品の価値をよく理解していただく必要があると考えている。我々の持つ商品の価値は、モノの価値だけでなく周辺価値、例えば安定デリバリーの価値、何か問題が発生したときに研究開発部隊を含めて解決する価値、グローバル展開力の価値など、あらゆる付加価値がある。それらを総合的に評価した価格を実現していきたい」

――足元の業績について。今期の連結経常利益見通しは前期比7割増の3千億円ですが、かつてのレベルには回復していません。

 「到底満足できるものではない。経常利益は13年度3610億円、14年度4517億円、15年度2009億円、16年度1745億円となり今年度は3千億円の見通しだ。15年度以降、石油価格低迷で得意とする鋼管事業が厳しくなり、中国の過剰能力問題で海外市況が悪化した。中国起因の原料価格高騰でマージン悪化に陥るなど、相次ぐ環境変化が業績を下押しした。一過性の設備トラブルや原料価格高騰の製品価格への転嫁の時期ずれなども影響したが、直近数年間の低収益はじくじたる思いだ。今は中国起因の要素が少し好転しており経常益3千億円レベルに戻ってきているが、まだ低いと言わざるを得ない」

――ポスコや宝鋼、CSCなど東アジアミルとの比較でも今は劣位にあります。

 「総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーを標榜している。本当の実力という意味では負けていないと思っている。ただ今は石油価格低迷で鋼管事業などの強みを発揮できない環境だ。そうした事業を持たないポスコなどに比べて収益面で劣っているが、環境変化が起きたときに結果が出るような仕込みはできている。ポスコをベンチマークして常に見ているが、確かにコスト競争力という点で当社がまだ追いつけていない部分はあるが、そこは引き続き取り組みを続けている。今は環境変化を待ち、それに備えて仕込みを行う時期だ」

――中長期の視点で見た経営課題について。

 「一つは設備と人の再構築。国内と海外を両輪とし、国内マザーミル強化に必要な資金を引き続き投じていく」

 「二つ目は品種事業戦略を、世の中の環境変化を受けてもう一度精緻に見直すこと。従来もそうだが、国内と海外を、品種事業の目でしっかり見て地域別戦略を立てることが重要だ。薄板は、どの地域で、どのパートナーとどういう勝負をするのか。鋼管はこういう環境下でどう生き延びるか、一方で将来に向けてどこにどう出ていくのか。品種ごとに地域戦略を立て直す中で、M&A(買収や合併)をどう組み込んでいくのかなどが課題だ」

日新製鋼とのシナジー効果「やれること数多い」/アセアン地域の鉄源「コンパクトな拠点を指向」

――需要構造の変化もありそうです。

 「薄板の自動車で言えば、EV(電気自動車)化が加速するとの見方もある。そうなった場合、必要とされる鋼材に変化が起きる。品種事業の目で、需要の変化や市場の変化を地域ごとによく見ることが重要だ」

――はい。

 「品種事業戦略の見直しの中に、特に薄板やステンレスにおいて日新製鋼との統合効果を織り込んでいく。そう位置付けている」

――3月に日新製鋼を子会社化したわけですが、現時点までの統合効果については?

 「一例は製銑部門。日新は、高炉があるのは呉製鉄所だけ。一人の製銑部長しかいない。当社は製銑部長会議を10人以上集まって開いており、そこで技術やノウハウの共有や横展開をしている。呉製鉄所に新日鉄住金の製銑技術を移転することですでにメリットが出始めている。今回、呉製鉄所の高炉改修を延期することを決めたが、これはシナジー効果だ。数百億円の投資を何年か後に延ばせることのメリットは大きい」

 「今後、両社とも下工程設備のリプレース(更新)が出てくるが、両社で最適な形を考えられる。どのミルにどの明細を入れるかといったインプットでも、やれることが数多くある。設備面・生産面のシナジーに加え、購買面での共同調達などもシナジー効果が期待できる」

――二つの中長期課題をお聞きしました。他の課題は?

 「三つ目は標準化だ。経営統合から5年間でかなりの標準化を進めてきた。社内の言葉もそうだし、仕事の仕方、仕事の概念まで含めた標準化をさらに進めていく必要がある。そこには当然、日新製鋼も入ってくる。標準化がしっかり整えば、IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)といった高度ITツールを導入することができるようになる。実現には時間がかかるが、取り組みを進めないといけない。次世代のものづくり、次世代の製鉄所のあり方について、次の3年間で一つの絵柄を描き、具体的な〝とっかかり〟をつくりたい」

――四つ目は。

 「世の中全体の変化への対応だ。自動車業界が象徴的だがCO2削減、省エネのさらなる推進、国内人口減少の中での労働力確保の問題などがある。WSA(世界鉄鋼協会)のレポートにもあるが、2035年に向けて世界鉄鋼業で鉄スクラップの使用比率が増えると考えられている。こうした大きな流れの中で当社としてどう対応するのか。これには技術開発の問題も関わってくる。それらの変化を見据えながら当社としてビッグピクチャーとマスタープランをどう描くのか、といった問題意識を持っている」

――今の鉄スクラップの話は、アセアン地域での鉄源拠点の持ち方にも絡んできますね。

 「確かに地域ごとの鉄源の需給を考えると、新規鉄源拠点を持つとすればアセアンになるだろうが、今から高炉による大型の一貫製鉄所を建設することは考えにくい。やるとすればコンパクトな鉄源拠点を指向することになるだろう」

――鉄鋼以外のエンジニアリングなど非鉄セグメントの課題について。

 「エンジは製鉄プラントと海洋事業が厳しい。製鉄プラントはかつて自社の製鉄技術を背景に技術供与も含めて展開していたが、当社自身がグローバル事業展開を拡大しており、資本参加していない鉄鋼メーカーへの技術供与ができない状況だ。世界鉄鋼業で設備投資が一巡しているという背景もある。海洋では石油価格低迷が大きく響いている。環境変化への対応が必要だ」

 「化学は基盤である石炭化学と有機ELなどの先端技術分野の事業を、どうマネジメントしていくかが課題。マテリアル(新素材事業)は小規模ながら当社らしい技術力を生かした強みを発揮しており、小さくてもキラリと光る存在になっている。システムソリューションは業績好調となっており心配していない」(一柳 朋紀)

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