【共英製鋼、目指せ100年企業 創業70年の軌跡と展望】〈(9)ベトナム「VKS」社〉電炉一貫で鋼材年産80万トン、共英の最大拠点に成長

 ビナ・キョウエイ・スチール(略称・VKS、社長・岩佐博之氏)は1996年1月、ベトナム南部のホーチミン市近郊で鉄筋・線材単圧ミルとして生産を開始した。

 VKSが稼働した当初のベトナム鉄筋需要は、わずか50万トン程度。また、日本は米国の対ベトナム経済政策に合わせ、同国向け経済協力・貿易を凍結していたため、投資環境も整備されておらず、同国への投資は「時期尚早」とみる向きもあった。

 しかし、VKS竣工式で挨拶した故高島浩一会長兼CEOの「ベトナムの未来を信じ、工業化を通じ発展に貢献したい。ビジネスチャンスは今しかない」という言葉の通り、「未来への挑戦」として、ベトナム進出を決断した。

 その後のVKSは、98年に通期黒字を達成。累計生産量も2000年に100万トン、04年に200万トン、07年末に300万トンと順調に成長。そして15年6月、年産50万トンの製鋼および第2圧延工場が竣工し、電炉製鋼圧延一貫工場として、鋼材生産能力は年80万トンに拡大した。

 VKSの昨年の鋼材生産量は72万トン。生産量では共英グループ最大の拠点であり、フル稼働となる今年は、80万トンを超える生産量となる見込みだ。

コスト競争力強化、販売先も多様化

 需要増の一方、既存ミルの設備増強や新規参入など、ベトナム国内における鉄筋の販売競争も激しさを増している。これを受けて、VKSも今年3月、競争力強化のため電磁攪拌装置を導入。ビレットの品質を向上させるとともに、加熱工程を省略し、直送圧延比率を高めるようにした。製鋼工場の安定稼働がキーであり、同比率が8割となるように取り組んでいる。

 これまでVKSの生産品目は、鉄筋85%、残る15%は線材だった。しかし、今後の需要増が見込まれるアングルの増産にも取り組んでいる。今年は2サイズ増やし、全8サイズが生産可能となった。また、ネジ節鉄筋は現在ODA案件など公共事業が中心だが、民間の日系案件も増えているため、今後の需要増に対応可能な体制を整えている。

 ベトナムは日本と違い、個人住宅で使用する鉄筋を施主が決める。VKSはPR活動なども行いつつ、製品品質の高さ、日本式のきめ細かい顧客対応などによりブランド力を構築し、個人住宅向けの受注を増やしてきた。

 現在は販売先の多様化を進めている。まだ需要規模は小さいものの、着実に増加しているアングルの受注、ローカルプロジェクトの受注増、メコン川下流域や中部高原といった遠隔地域への拡販などだ。例えば、メコン地域のカントー市には、過去にいったん閉鎖した事務所と在庫倉庫を2015年に再開設。2年連続で販売量を倍増させている。

 輸出にも積極的に取り組む。まずは従前より輸出してきたカンボジア向けの増量。昨年の同国への輸出実績は2万6千トン。今年は計画を30%上回る7万トン超となる見通し。その他ラオス、ミャンマーへの輸出も実施。また、来年の実行を目指して豪州規格の取得手続きを進めている。

リサイクル事業への進出も検討

 さらに、将来的にはリサイクル事業に参入することも視野に入れ、本社と連携し検討を始めている。

 VKSが将来像としてモデルとするのは、共英の山口事業所。鉄筋以外に一般形鋼など多様な製品を生産し、リサイクル事業の中核でもある、収益力の高い事業所だ。

 「共英の各事業所の特徴や強みをすべて集約した拠点にしたい」(岩佐社長)―VKSは、ベトナム南部で存在感のある電炉メーカーとしての地位確立を目指しまい進する。

© 株式会社鉄鋼新聞社