【世界鉄鋼業の課題】〈新日鉄住金・進藤孝生社長(世界鉄鋼協会新会長)〉「CO2削減に対応」 車業界の変化など〝メガトレンド〟注視

 世界鉄鋼協会(WSA)の新会長に就任した新日鉄住金の進藤孝生社長に、世界鉄鋼業が直面する課題や新日鉄住金の取り組みなどについてブリュッセル市内のホテルで聞いた。(ブリュッセル発=一柳朋紀)

――まずは鉄鋼業のマクロ環境から伺いたい。

 「政治的リスクが高い状況にあるが、鉄鋼業を取り巻く環境は明るく、好況と言える。将来にわたって続くかどうかは不安もあるが、当社としては、しっかりモノづくりを行って成果を刈り取りたいと考えている」

新日鉄住金・進藤社長(世界鉄鋼協会新会長)

――中国の動向は。

 「地条鋼が統計外からオフィシャル(統計内)になったことについて、良かったとの声が多い。中国からの輸出数量は減っており、この方向で進んでいくことが望ましいと考えている。一方で、中国共産党大会後の経済運営を注視していきたい。公共工事を積極的に行っており、地方政府の信用供与が急激に膨らんでいるが、地方企業の救済資金などに使われていないか懸念する見方もある。土地の価格はピークだった2008年時よりも上がっており、どこまで続くのかという問題もある」

――世界鉄鋼業の短期課題をどう見ていますか。

 「短期課題は(1)過剰能力問題(2)原料価格の乱高下(3)石油価格の低迷―だ。過剰能力削減と原料価格の問題は今のところ収まってきており、一段落というところだろう」

――石油価格は。

 「一時期の1バレル=100ドルから50ドルまで下がり、20年まで50ドル水準が続くとの見方が支配的だ。そういう前提で考えていく必要がある。当社のエネルギー分野向け鋼管事業も、そうした前提でどう生き延びていくかが課題だ」

――鉄鋼業の中長期的な課題は。

 「中期課題の一つはCO2削減問題。日本よりも、ここ欧州でより切実な問題になっていると感じる。WSAのレポートでは鉄スクラップの発生量が今後増えていって、35年には世界鋼材生産の半分を電炉で賄えるようになるという試算になっている。ただそれは、半分は高炉が残ることを意味している。電炉が増えるのは間違いないが、LCAの観点を踏まえることが重要だ。CO2規制は国によっても異なるため難しい面もあるが、WSAの主テーマの一つであり、ベストプラクティスをトランスファー(移転)して底上げしてくことが必要だろう」

 「もう一つの中期課題はメガトレンドへの対応だ。例えば自動車業界の変化によって鋼材需要がどうなるか。EV化や自動運転化が進んでも鋼材消費量が減らないという見方もある。またスクラップのトレンド変化も見逃せない。今、世界中で鉄スクラップの蓄積が300億トンあって、毎年2・5億~3億トン発生しているという構造になっているが、蓄積が進んで構造変化が想定される。大きなトレンド変化をしっかり見ていきたい」

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