【欧州の鉄鋼事情】〈新日鉄住金欧州事務所・奥村彰規所長に聞く〉欧州鉄鋼業「2大メーカー時代に」 中国・ベトナムなど、域外から輸入材流入

――欧州鉄鋼業のトピックスから。再編統合が進展していますが、どう見ていますか?

 「ティッセンクルップとタタ製鉄が、50%ずつ出資して『ティッセンクルップ・タタ製鉄』を設立するMOUを締結した。2018年初めに契約を締結し、18年末までのクロージングを目指している。統合後の合弁会社は薄板に特化する形となり、出荷量は年2100万トンの規模になる」

 「これにより欧州鉄鋼業は、イルバ社を買収するアルセロールミッタルとティッセンタタ社の2大メーカー時代になる。欧州鉄鋼再編はひとまず完了したと言えるのではないか」

新日鉄住金欧州事務所・奥村所長

――過剰能力も解消されるのでしょうか?

 「会社の再編統合は進んできているが、設備の集約とか余剰能力の淘汰はまだ十分に進んでいない。欧州はマクロ的には上工程設備がやや過剰で、下工程はさらに過剰能力が大きい。上工程の淘汰は少しずつ進んできているが、稼働率にはまだ余力がある状態だ」

 「設備廃棄が行われる一方で、英国のリバティ社がUO鋼管の工場を買収し、そこに供給する母材の厚板工場を英国で買収して、休止中の設備を再稼働するような動きもある。アルセロールミッタルも買収したイルバの生産能力を400万トン増やす計画があるが、これを欧州域内で売るのか、アルセロールミッタル内の設備最適化を図るのか。各企業の中長期的な戦略を踏まえて、欧州鉄鋼市場がどうなっていくのかを見ていく必要がある」

――今後の需要見通しは?

 「欧州域内の需要は2億トン弱ある。ヨーロッパ経済は堅調であり、鋼材需要はこの先大きく増えることはないだろうが、ほぼ横ばいで推移していくとみている。中国やベトナムからの輸入材が流入しているが、域外からの輸入材は続くと見ている。通商措置はうっているものの、中国材は品種を変えて入ってきているし、最近はベトナム材が増えている」

――ティッセンタタの誕生による新日鉄住金のビジネスへの影響などは。

 「当社の欧州地域での販売数量は、全社の1%程度にとどまっている。品種は鋼管がほぼ半分を占め、残りは電磁鋼板やエネルギー分野向けの厚板など。欧州域内で生産できないものや高付加価値の製品に限られており、欧州鉄鋼メーカーのそうした動きに直接影響を受けることはないと考えている」

――現在の欧州事務所の概要について。

 「駐在員が12人、ローカル社員が6人の構成。技術サービスなどもいる。ここ最近では、チタンの技術者とパイプ系の知的財産関連で駐在者を増やした」

 「自動車分野では、欧州系自動車メーカーや部品メーカー向けに、設計段階から当社の鋼材を使ってもらえるような技術提案営業を進めている。実際に当社の鋼材が使われるのは、中国やタイなど欧州域外になるが、欧州本社に対して技術コンタクトをすることで、1世代・2世代後の車に素材供給できるようにしていくのが役割だ」

――その自動車分野では、EV化が進んでいます。

 「欧州は半分がディーゼル車になっており、世界的には特異な構造になっている。英仏はガソリン車を廃止する方針を打ち出しているが、ドイツは雇用も考慮してディーゼル車の延命を図ろうとしているように見える。ドイツで全てEVに変えたら電力消費量が25%増えるとの試算もあり、火力発電の比率が45%と高いことも背景にあるだろう。国によって違いがあり、動向を注視していきたい」(ブリュッセル発=一柳朋紀)

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