【新日鉄住金エンジニアリング フィリピンの建築・鋼構造事業(下)】〈現地構造設計大手のシースクエア・ホセ・シー社長に聞く〉建設市場堅調も依然RC造中心

 【フィリピン・マニラ発】フィリピンの構造設計コンサル、シースクエア(SY^2)は83年に設立。同国で96~97年に起こった経済危機を乗り越えた。従業員は200人を擁し、そのほとんどが建築構造エンジニア。建築構造コンサルとしては最大規模で、日本の専業最大手が20~30人の陣容であることを考慮するとその規模の大きさがわかる。

 超高層ビルの構造設計を得意とし、マニラ首都圏の高層ビル設計の8割を手掛けるほか高さトップ10の建物のうち9件を設計。空港やホテル、病院、ショッピングモールなどマニラ首都圏で500件以上、海外でも20件以上の設計実績を誇る。新日鉄住金エンジニアリングのフィリピンの建築・鋼構造合弁、PNS―アドバンスド・スチール・テクノロジー(PNS―ASTech)とは厚い信頼関係を築いている。

現地構造設計大手のシースクエア・ホセ・シー社長

 「SY^2」のホセ・シー社長は現在のフィリピンの建設市場について「これまで米国のコールセンターなどのBPO案件がけん引していたが、米・トランプ政権の誕生で、設計は継続されているもののプロジェクト実行は様子見となっている。ただ、コンドミニアムや商業ビル建設は依然旺盛で、現在120件の手持ち案件を抱えている。また、年間500件程度のプロポーザルがあり、当社の受注率は5割だ。フィリピン建設市場はある程度の規模の案件やハイエンドな案件は堅調に推移している」とする。

 高層建築案件が旺盛な一方で、その構造は鉄骨(S)造ではなく鉄筋コンクリート(RC)造が中心。その背景について「フィリピンにおいて鉄はコンクリートよりかなり高価でその差は20~25%程度。その理由は鋼材のほとんどを輸入に依存していることと、S造建設に従事するスキルを有する現場の人材も少ない点にある」とする。建物については「高級マンションなど売買や引き渡しのタイミングを施主がある程度コントロールできる分野はRC造が続きそうだ」という。

 S造は現状では「特殊な構造、例えばドームなどの案件には適用される」とする。例えば、PNS―ASTechが手掛けた特殊鉄骨案件「マニラ・ベイ・リゾートプロジェクト」(マニラ・パラニャーケ市)は鉄骨がドームに用いられた案件。マニラ湾を臨むカジノ併設の日系ホテル、オカダマニラの敷地内に建てられる特殊鉄骨を用いた半球ドーム構造の建築物の鉄骨をPNS―ASTechが供給した。ドームの直径は100メートルでPNSは鋼材調達と鉄骨加工を担った。鉄骨には300ミリ角の角形鋼管780トンが使用され、鉄骨加工はタイのファブリケーターで行われた。3次元ソフトウェアを駆使した接合部設計や鋼管の曲げ加工など難易度の高い特殊鉄構案件で、同社の豊富な特殊鉄構の実績を見込まれ受注に至った。加工は当初6カ月の予定だったが、治具を増やすなどの対応を行い3カ月に工期を短縮している。同社は手がけていないが、隣接する噴水周りのコリドー(回廊)にも鉄骨2千トンが使用され、新日鉄住金と岡谷鋼機が出資するベトナムのPEBスチール・ビルディング(PEBSB)が鉄骨加工を行なった。

 ドームなどの特殊案件のほか「商業エリアの賃貸オフィスビルやショッピングモールなど早く建設すればより多く収入を得ることが可能な分野やRCをコアに外周に鉄骨を用いるハイブリッド構造では鉄骨造の優位性が生かせそうで、S造化の可能性がありそうだ」とする。ただ、「コンクリート構造で設計し建設することに現場は慣れておりS造の優位性を生かしきれない。転換するには価格面やワーカーのスキル、工事計画も含めてまだハードルが高い」という。

鋼管杭施工の〝ローカル化〟が普及のカギ

 こうした中、新日鉄住金エンジについて「プラクティカルな面と大学との研究などアカデミックな面の双方を一緒にやっていくという部分で期待を持っており、また期待に応えてくれている」と評価。製品への評価も高いが「免制震製品や杭などのサプライヤーで施工業者ではない。制振用ダンパー『アンボンドブレース』などは施主やゼネコンへ製品を直接納入するので製品力が競争力につながりやすい。しかし、回転圧入鋼管杭『NSエコパイル』は施工に関して杭打ち業者などのローカルパートナーが必要で、施工経験がないためさまざまなリスクを考え施工価格が上がってしまうことが問題。ローカライズをどうするかを考えればより広まっていきそうだ」とローカル化が普及のカギと語る。(村上 倫)(おわり)

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