【共英製鋼、目指せ100年企業 創業70年の軌跡と展望】〈(10)ベトナム「KSVC」社〉20年に電炉一貫へ、コスト競争力を強化

 ベトナム北部の首都・ハノイ近郊でキョウエイ・スチール・ベトナム(KSVC)が稼働を始めたのは、2012年3月。共英製鋼がメジャーとなって、現地ミルを買収し設立した。現在の同社は年産30万トン規模の鉄筋・線材圧延ミルで、16年実績は約27万トン。フル稼働が続き、今期はほぼキャパシティーいっぱいの28万5千トンを目指している。

環境改善、計画再開

 「将来、ベトナムの条鋼需要は1500万トンにまで達するのではないか」―成長するベトナム鉄鋼需要について、共英製鋼の現地関係者は期待感をこう示す。

 ベトナムの人口は約9千万人。日本の小形棒鋼需要のピークは90年の1375万トンで、1500万トンはそれを上回る数字だが、ベトナムには鉄骨造がほとんどないため「日本のピークを超えるのでは」との期待につながっている。

 こうした急増するベトナム鉄筋需要を捕捉するため、KSVCでも設立当初から既存工場の近隣地に年産50万トン規模の製鋼・圧延一貫ミルを建設する計画が進められていた。しかし、14年、中国製鉄筋・線材の流入がベトナム北部の市況を大幅に押し下げたことや、北部の競合激化などにより一時中断した。

 しかし、昨年のセーフガード措置により、中国からの鋼材流入の問題がひとまず解消し、中国の過剰な鉄鋼設備の廃却も進んだ。成長が見込める市場において、その環境が改善し、電炉建設計画再開への道筋が整い始めた。

 また、ベトナム鉄筋最大手のホアファットグループが中部のクァンガイ省ズンクワットで年産400万トンの高炉建設を開始、さらに生産量を拡大しようとするなど、シェア拡大を目指す現地ミルの能力増強も共英に投資の可否について決断を迫っていた。

 こうした中、今年8月、「事業展開・収益基盤強化には生産能力増強投資が必須」と判断し、計画再開を決定。再び電炉一貫への道を歩むこととなった。

 すでに地盤改良工事は完了し、現在は主要設備の仕様検討を進めている。19年には圧延ミル、20年には製鋼ミルの操業を開始する。建設予定地には内航船が接岸でき、製品輸送・鉄スクラップ入荷などでコストメリットも見込める。

 KSVCは製鋼・圧延一貫工場の建設で、これまでの単圧ミルから、ライバルメーカーに対抗できるコスト競争力のある電炉一貫ミルへと飛躍を目指す。

公共投資案件を捕捉

 ベトナム国内における条鋼需要には、地域的な偏りがあり、最大都市・ホーチミンがある南部よりも首都・ハノイのある北部の需要が多く、国内需要の7割を北部と中部が占めている。

 特に開発の遅れていた北部の発展にベトナム政府は注力しており、道路整備など土木関連の投資が急ピッチで進む。そのため、民間需要が中心となる南部に比べ、北部は日本のODAを含む公共案件が多いのが特徴だ。

 こうした需要を取り込むため、KSVCは協賛企業とともにCSR活動に積極的に取り組む。省都ニンビンに桜を咲かせる「桜プロジェクト」のほか、「ニンビンサニタリー改善プロジェクト」では〝日本品質〟のPRを狙い、KSVCの向かいにある学校にトイレの建設や寄付を行った。

 足元で動き出した公共投資関連の需要を契機として、今後は民間案件が増える見通し。施主が使用する鉄筋を決めるベトナムにおいて、ブランドイメージの向上は欠かせず、共英グループでホーチミン市近郊にある電炉一貫ミル「ビナ・キョウエイ・スチール(VKS)」と同様に、KSVCもテレビCMや看板の設置などによるPR活動に力を入れる。

 競争が激しさを増す中、成長するベトナム、東南アジア市場でどう事業を展開していくのか。高炉メーカーも含めた日本メーカーの課題であり、そうした中、共英製鋼は先駆者としてベトナム市場の開拓を進めてきた。KSVCの電炉建設再開で、共英はベトナム南北で電炉一貫事業を進めることになる。共英は日本の鉄筋市場で最大シェアを占め、一定の影響力・存在感がある。ベトナムでも同じような存在になれるのか。今後の事業展開が注目される。

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