【MLB】価値“再上昇”の田中将大、ヤンキース退団の可能性は? NY紙名物記者が分析

ポストシーズン(PS)で圧倒的なパフォーマンスを見せる田中将大投手の去就に注目が集まっている。

ヤンキース・田中将大【写真:田口有史】

PSでの快投で評価は一変「タナカは自分自身をヤンキースの外へと投じるかも」

 ポストシーズン(PS)で圧倒的なパフォーマンスを見せる田中将大投手の去就に注目が集まっている。シーズン終了後、契約を破棄してフリーエージェント(FA)となれる「オプトアウト」の権利を持つ右腕は、今季のレギュラーシーズンでは安定感を欠き、厳しい批判を浴びることもあった。オプトアウトも行使しないとの見方が強かったが、ここに来て自らの力で評価を一変させている。

 2014年に楽天からポスティングシステム(入札制度)で移籍した際、ヤンキースと7年総額1億5500万ドル(約174億3000万円)の大型契約を結んだ田中。今季終了後には3年総額6700万ドル(約75億3500万円)を残すことになり、FAとなってこれを上回る契約を手にできるかが大きなポイントとなる。米メディアの中では、オプトアウトすれば年俸2000~2200万ドル(約22億5000万円~23億6000万円)の4?5年契約、つまり最大5年1億1000万ドル(約123億7000万円)と現在の契約を2年上乗せするような条件も引き出せるとの声が出ているが、果たしてどのような決断をするのだろうか。

 地元紙「ニューヨーク・ポスト」は「マサヒロ・タナカは自分自身をヤンキースの外へと投じるかもしれない」とのタイトルで、名物コラムニスト、ジョエル・シャーマン記者が執筆した特集記事を掲載。田中が好投すればするほど、FAを選択してヤンキース残留の可能性が低くなるとの見方が強い中で、去就を占う5つのポイントを挙げている。

田中の「ヤンキース愛」もポイントの1つに

 鍵となりそうなのは、初年度に長期離脱の原因となった肘の状態に対する判断だ。田中は右肘靭帯部分断裂で約2か月半の離脱を経験。保存療法を選択し、靭帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)は受けなかった。当初から、手術を必要とするほどの重症ではなかったとされており、実際にその後は肘の不安を感じさせるようなことはないが、それでも懐疑的な見方は未だに強い。

 シャーマン記者は第1のポイントで「タナカはワールドシリーズが終了してから3日以内にオプトアウトするか残留するかを表明しなければならない」と指摘している。「それまではヤンキースの一員であるため、ルールにより彼の代理人は他球団と話したり、特に肘に関しての医療上の情報を送ったりしてはならない」。つまり、肘の状態を不安視している球団があるとすれば、それを確認する時間はないというのだ。

 一方で、田中の肘の不安を払拭するデータもある。それは、先述したように負傷後に健康状態の面では順調なシーズンを送っているということ。2つ目のポイントでは「タナカは2014年途中に肘内側側副靭帯の部分断裂が明らかとなり、トミー・ジョン手術が待ち受けているように見える。しかし、2015年から2017年にかけて、レギュラーシーズン85試合で先発しており、この2年間ではアリエッタと同数で、ダルビッシュより13試合多い61試合に先発している」と分析している。シャーマン記者は「MRIなどを見た後に各球団がどう動くかは謎だ」とも付け加えているが、果たしてどんな動きがあるのか。

 3つ目のポイントは、田中の「ヤンキース愛」だ。「タナカはヤンキーであることをエンジョイしているように見える。また、毎年王者になるためプレーできる時期だと感じるだろう。これは彼がオプトアウトするかどうかに影響するだろうか?」。メジャー随一の名門球団でのプレーは、多くの選手にとって憧れだ。昨オフ、FAとなっていた剛腕チャプマンは、ヤンキースでプレーできる喜びを一番の理由に掲げ、“出戻り”を選んだ。

 このポストシーズンで、田中は圧倒的な勝負強さを発揮している。選手の目の色が変わる10月の戦いで、メジャーの猛者と対峙し、抑え込むことに最高の喜びを感じているようにも見える。この痺れるような戦いを多く経験するために、常勝を義務づけられたヤンキースでプレーすることは近道となる。若手の台頭で低迷期に終止符を打ち、新たな黄金時代を築こうとしていることも決断への大きな要素となりそうだ。

「タナカの健康状態をヤンキース以上に知る球団はない」

 もちろん、田中がオプトアウトを選択してFAとなっても、ヤンキースが再契約に動くことは可能だ。ただ、サバシアの例が決断を難しくさせるという。シャーマン記者はこれを4つ目のポイントとしている。

「2011年シーズン、CC・サバシアが7年契約の3年目を終えたときに、彼がオプトアウトするかどうかを懸念し、ヤンキースは2年5000万ドル(約56億8000万円)の契約を追加した。それ以降ほぼずっと、ヤンキースは決断を後悔した。しかし、サバシアは契約最終年にあって凄まじい」

 一時、不良債権と化していた左腕は今季復活。ポストシーズンでも重要な役割を果たしている。シャーマン記者は同時に、ヤンキースが田中と1年平均が下がる代わりに契約総額が増える5年総額1億ドル(約113億5000万円)規模の契約を新たに結ぶようなことがあれば、贅沢税のコストカットにもなると指摘している。

 そして、最後には「もしヤンキースがタナカを特に引き留めずにオプトアウトを許せば、球界のその他(の球団)は彼と契約を結ぶことを恐れるだろうか? 結局、タナカの健康状態をヤンキース以上に知る球団はないのだ」と言及。他チームが田中の肘の状態を把握できず、及び腰になるような状況になっているのなら、情報を集めている代理人がオプトアウトの権利行使をとどまるかもしれないというわけだ。

 田中の価値がこのポストシーズンで“再上昇”していることは間違いない。すべての日程を消化した後、どんな決断を下すのか。注目は日に日に高まっている。(Full-Count編集部)

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