ホークスVS楽天の勝敗分けた分岐点 流れ変えた鷹・工藤監督の一手

ソフトバンク・工藤公康監督【写真:藤浦一都】

日本シリーズ進出を決めたホークス、流れ変えた第3戦

 リーグ王者のソフトバンクに与えられたアドバンテージを含めて4勝2敗。パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージは、22日に行われた第5戦で決着の時を迎えた。リーグ3位ながらファーストステージで西武を破った楽天が塩見、辛島の好投で初戦、2戦目に連勝。窮地に立たされたソフトバンクだが、3戦目から怒涛の3連勝を飾って、一気に勝負を決めた。

 楽天が物凄い勢いを見せての連勝で幕を開けたファイナルステージ。だが、終わってみれば、ソフトバンクの勝負強さをまざまざと感じさせるものだった。両者を分けたものは、どこにあったのか。誰もが感じたであろう分岐点。それは、第3戦だ。

 この試合を振り返る。初回に楽天が3試合連続で先制点を奪ったが、先発の則本がピリッとしなかった。ソフトバンクがその裏にデスパイネ、松田にタイムリーを浴びてあっさりと逆転。だが、楽天は2回に茂木、藤田のタイムリーで再び試合をひっくり返した。ソフトバンクは3回に内川が3ランを放って再び逆転。楽天は5回にアマダーが和田から2ランを放って同点に追いついた。そのまま5-5で進み、8回裏、ソフトバンクが楽天のセットアッパー福山から中村晃が決勝2ランを放って、ソフトバンクが勝利した。

 楽天・梨田昌孝監督は第5戦に敗れた後にこう語っている。

「5-5でいったところで、ノリ(則本)が7回で降りて、8回に福山がいってのヒット、ホームラン。流れ的には5-5でいったところで、先に点が入っておけば変わったんだけど、同点でいっていた分、後手後手になったのかも分かりませんけどね」

第3戦の結果で「本来の姿取り戻した」ホークス

 先発の則本が7回まで投げて11奪三振を奪ったものの、5点を失ったのは痛かった。なんとか同点を保っていたものの、勝ち越し点を奪えずに苦しくなってきたところで、連投が続いていた福山が打たれた。1、2戦と不振だった中村晃に復調のきっかけを与え、ソフトバンク打線を勢いづかせたのは、この3戦目だった。

 ソフトバンクの工藤公康監督はどう捉えていたのか。日本シリーズ進出決定後の会見で、こう明かしている。

「(連敗して)正直これはヤバいなという雰囲気はあったんですが、そういうのは表に出すものではないと思っていました。何か自分に出来ることはないかと思って(3戦目の)シートノックが終わった時に円陣の中に入らせてもらい、『とにかくバカになって野球をやろう、騒いで野球をやろう』ということを選手に伝えました。そのゲームで1点差(実際には2点差)を勝ち抜いたところというのが1番大きいなと思います。

 シーズン中もそうでしたけど、1点差をしっかり守り抜く野球が、今年のウチの野球。それがしっかり出来たというところで、選手たちが次の日から落ち着いて野球が出来たんじゃないのかなという風に思います。試合勘というのも、その試合に勝てたことによって、本来のものを取り戻すことが出来たんじゃないかなと思います」

突然抜擢した選手が活躍、工藤監督の手腕

 窮地に立たされた工藤監督は、思い切った策に出た。今季のシーズンをファームで過ごし、リーグ戦わずか2試合出場だった城所を「2番・中堅」でスタメンに抜擢。今宮を1番に、デスパイネを5番から3番に置き換えた。シーズン143試合を戦ってきた形を変えた。正直、窮地に追い込まれ、血迷った采配、奇策、ギャンブルに思えた。同様に思ったファンも少なからずいたのではないだろうか。「工藤監督、申し訳ありませんでした」と謝るしかない。この一手が、シリーズの流れを大きく変えた。

 試合前のシートノックが終わった後には、指揮官自ら、普段は入らない円陣に入って、ゲキを飛ばした。そうして始まった第3戦、初回の先制点は今宮が安打で出塁し、城所の犠打がお膳立て。3回には城所が右翼線二塁打で出塁したところからチャンスが広がって内川が3ランを放った。5回の守備では、左中間を抜けようかというウィーラーの大飛球を城所が猛ダッシュで追い、スライディングキャッチするスーパープレー。その直後の攻撃では、この日2本目の二塁打を放った。ポイントポイントで、城所の活躍が光っていた。

 こう言っては失礼だが、誰が、これほどまでの城所の活躍を予想出来ただろう。昨季の交流戦MVPといえど、今季は2試合しか出ていなかった。当初はCSメンバーからも外れており、この日出場選手登録されたばかりだった。思い返せば、シーズン中も、工藤監督が突然抜擢した選手が活躍したのは1度や2度では済まない。練習は共にし、打撃練習などを見ていたとはいえ、その慧眼には頭が下がる。

 この一戦を境に、シリーズの流れは一気にソフトバンクに傾いた。ソフトバンクの工藤監督が打つ手は当たり、1、2戦目はズバズバと当たっていた楽天の梨田監督の策が裏目に出るようになった。分岐点となった3戦目。この試合の勝敗が、両者の命運を逆転させるものとなった。

(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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