1年で球速10キロ増&150キロ超え 急成長でプロ注目、ドラフト待つ18歳の選択

四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックス・伊藤翔【写真:篠崎有理枝】

四国アイランドリーグで飛躍、プロ注目の伊藤翔はなぜ独立Lを選んだのか

 今月26日に開催されるプロ野球のドラフト会議。憧れのNPBの舞台に1年でも早く立ちたいとの思いを秘めて独立リーグでプレーすることを選んだ選手が、運命の日を迎える。四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレーする伊藤翔投手は、今春千葉県の横芝敬愛高を卒業したばかりの18歳。複数の大学からの誘いがあったが、「4年間待つよりも、毎年勝負したい」と、独立リーグへの道を選んだ。今シーズンは152キロの速球を武器に、ルーキーながらエースとして活躍。チームの独立リーグ日本一を牽引した。

「独立リーグのことをあまりよく知らなかったので、最初は大学進学を考えていました。でも、いろいろな人から話を聞いて、大学4年間やって1発勝負より、独立リーグなら毎年勝負がかけられると思いました。高校の監督からも『お前の性格なら毎年勝負をかけたほうがいい』と言われました」

 両親も「好きな方へ行け」と背中を押してくれ、徳島インディゴソックス入りを決断。入団1年目ながらリーグ2位タイの8勝、防御率2.18の好成績を残した。

 高校生の時と大きく変わったところは「自分で考えるようになったこと」だと話す。6月には球速が152キロをマークしたが、これも自身で試行錯誤した結果だ。4月から5月の前期リーグ戦で調子が悪かったわけではなかったが、「もっと速い球を投げたい」と投げ方にアレンジを加えた結果、フォームを崩し球速は140キロ前後に落ちた。「後期に間に合わない」と焦ったが、前期のフォームを携帯の動画で見て徹底的に研究し、投球フォームを安定させた。

複数の球種を習得、「完璧になるのに1か月以上かかった」

「人から教えてもらうのではなく、自分で体験した方が体も覚えます。後期はしっかりいいピッチングができるようになり、安定してMAXに近いスピードが出るようになりました」

 スライダーやフォーク、ツーシームなどの変化球も習得した。ツーシームを覚えたのは、プロではバットが木製バットになり、大きい変化では打ち取れないと考えたからだ。

「最初はカットボール、シュートも練習しましたが、自分は肘を怪我しているので、シュートだと肘に負担がかかってしまう。ツーシームはストレートと同じ握りで、ボールが勝手に動いてくれます。握り方もいろいろ試しました。キャンプ中もずっと練習して、完璧になるのに1か月以上かかりました」

 今、自身がNPBで戦うために足りないと考えているのは体だ。太りづらい体質だというが、入団してから5~6キロ体重が増えた。独立リーグという厳しい環境で、サプリメントなどを思うように買うことができないが、千葉の実家から送られてくるお米には助けられているそうだ。徳島では初めての独り暮らしも経験。自炊はなかなか出来ないが、食生活には気を使っている。

独立リーグでの成長に「感謝」、NPBで尊敬してもらえるピッチャーに」

「1軍で活躍しているピッチャーは、体が違います。1年間怪我をしないでローテーションを守れる体力が必要だと思います。正直、切り詰めなきゃいけないところもありますが、実家がお米を送ってくれるので、お米だけ炊いておかずを買っています。サラダやヨーグルトなど、買うものは考えています」

 内野手として巨人や中日で活躍後、西武や楽天などでコーチを歴任、今シーズンから徳島でヘッドコーチを務める鈴木康友氏は「高校3年までは140キロ前後までしか出なかったですが、入団後数か月で10キロ以上球が速くなった。筋肉を伸ばし、体幹を鍛えるなど、プロに入って専門的なトレーニングが上手くいったからだと思います。体も大きくなっている。これからまだまだ伸びていくと思いますよ」と、太鼓判を押す。

 これまでの自身の最高成績は、横芝敬愛高3年夏の3回戦。大きな優勝の経験がなかったが、今シーズンは独立リーグ日本一をかけた信濃グランセローズとのグランドチャンピオンシップ第2戦と第4戦に先発、1勝0敗とエースとしての役割を果たした。チームも見事独立リーグ日本一に輝き、シーズンを最高の形で締めくくった。伊藤は「日本一を決める試合で投げさせてもらったことに感謝している」と話し、高校生の時は遠かったNPBに近づけたと手応えを感じている。

「球速、変化球の切れなど、自分にしかできない、尊敬してもらえるピッチャーになりたい」と話す表情には、18歳とは思えない逞しさを感じた。夢であるNPB入りを4年間待てないと進んだ独立リーグ。「やれることはやってきた」と胸を張る右腕は、1年目でその夢を叶えることができるのか。ドラフト当日が楽しみだ。

(Full-Count編集部)

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