【東京製鉄の下期戦略】〈西本利一社長に聞く〉今期生産93万トン強へ 田原工場の操業習熟度、着実に向上、特寸H形鋼のサイズ拡大

――上期(2017年4~9月)の経常利益は前年同期比42・7%増の79億2100万円。大幅な増収増益だったが、まずは総括を。

 「前年の上期比で鋼材販売量を19万6千トン増やせたのは良い結果と言える。数量増の3分の2が鋼板で、残り3分の1が条鋼。中国の鉄スクラップ輸出による4~6月の原料安という想定外の要因はあったが、利益水準はRОS10%と製造業の平均に比べても悪くない」

東京製鉄・西本社長

――18年3月期通期の売上高の予想を1600億円に引き上げた。ただ、利益予想は据え置いた。

 「鋼材販価は9月契約と10月契約の2カ月連続で値上げした。下期の鋼材販売単価は3万2千円と上期比3900円高と見込む。合計5千~6千円の値上げ幅に比べ、下期単価の上昇が小さいのは受注残があることに加え、製品の出荷に遅れが生じているためだ。H形鋼は工期によるずれ込みだが、薄板は当社の生産の遅れによるものだ」

――田原工場の生産が不調なのか。

 「大きなトラブルはないが、製鋼操業の習熟度がまだ満足いくレベルに達していない」

――下期の鋼材販売量は120万トンの計画。田原工場の生産量の目標は。

 「従来、上期110万トンの計画だったが約10万トン増えた。約10万トンのうち約6万7千トンは田原の増加。下期も同様の上乗せがあると考えれば、今期の田原の生産量は当初の80万トンから93万トン強になる見通しだ。田原工場の採算は2月以降、月次で黒字が続いている」

――田原工場の生産量を増やす計画は。

 「製鋼操業の習熟度を着実に向上させていくことが最も重要だ。現在の電力契約で生産を増やすと相当なコスト高になる。生産を増やしても収益に結び付かなくては意味がない。電力会社とは契約交渉をしているが、現在の契約の操業時間内で生産を最大限に増やす努力を進めている」

 「田原工場の製鋼では今期に2億円弱を投じてエネルギー効率化のシステム投資を行う。排ガスを活用した炉内の熱効率向上とスクラップ投入をダイナミックに行うもの。テノバ社製の『ネクストジェン(NEXTGEN)』というシステムで、導入は世界初ではないか。タップ・ツー・タップの短縮によって、いずれは現在の電力契約でも年間120万トンは生産できると考える」

――岡山工場の新CC(連続鋳造設備)の進捗状況は。

 「現在は設備のコールドランを行っている。11月からはCCの試運転に合わせて、停止中のDC炉の試運転も始める。現在操業中のAC炉は1月末で完全にDC炉に切り換える。これにより電気炉の能力はAC炉の年産80万トンから、DC炉の同180万トンに引き上がる。夜間操業でも生産余力ができるため、来年度には岡山でスラブ生産を再開したい。岡山のスラブは田原でホットコイルに圧延する。余力は月3万トン程度のため、岡山でホットコイルの圧延は難しい」

――下期の生産、販売で力を入れる取り組みは。

 「レーザ切断性に優れた鋼板は板厚16ミリの評価は確立できた。今後はこれを19~22ミリでも確実にしたい。特寸サイズのH形鋼もユーザーと開発を進めており、下期はサイズレンジを拡大したい」

――鉄スクラップ調達に関して、輸入に積極的に見えるが。

 「あくまで国内からの調達が大前提だ。海外調達に頼る考えは全くない。時期的な需給ギャップに対応して輸入することもあるが、経済合理性がある場合のみだ」

 「日本の鉄スクラップが輸出されるのは内航船より輸出の方がフレートにメリットがあるため。資源循環の観点では本末転倒。最近、静脈産業メジャーの創設に向けたスズトクHDの取り組みに産業革新機構が参画したが、仮に輸出を主眼としたメジャーであるならば、税金を投じるのはいかがなものか。国内には需要先がしっかりある」

――東京都がリサイクル鋼材を積極調達する動きについては。

 「資源循環が必要な時代が来ることは間違いない。2050年には鉄鋼需要の70%をリサイクル鋼材でカバーできるという研究がある。自治体がこれを推進することは全く問題ない。日本鉄鋼連盟が、高炉メーカーが鉄スクラップの最大消費者だと主張したようだが、自家発生のリターンスクラップの消費を計算に入れることには違和感を感じる」(小堀 智矢)

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