<隠れた名盤> ジェロ『カバーズベスト』 オリジナルの歌手の歌いグセも反映し

ジェロ『カバーズベスト』

 デビュー10周年を記念した2枚組カバー集。(黒人)×(演歌)やロックやジャズ風の派手な編曲で初期にヒットしたが、年代順に収録した本作ではその後の成長も楽しめる。

 disc1は演歌編。17曲中、『夜空』や『契り』など五木ひろしの楽曲が最も多いだけあって、ファンゆえの歌いグセが反映されていて面白い。ボーナス曲の『与作』は本作のための新録音。ドゥー・ワップ調のコーラス・ワークが、まろやかな声を引き立てる。

 disc2は、ポップス・歌謡曲編。こちらは、門倉有希や岩崎宏美など女性曲もあり、感情移入し過ぎずカバーしているのが、逆に物語を浮き立たせている。出色は、槇原敬之の『桜坂』か。マッキー版の高音が青春の途上を想起させるのに対し、キーを下げたジェロ版は人生の岐路で友を慕うようで、しんみりさせる。

 最新シングルの王道演歌『ひとり舟』も気持ちよさそうな歌い上げがオススメ。彼の歌声から、日本語から滲む切なさや愛しさをより実感するはず。

(ビクター・2CD 3500円+税)=臼井孝

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