県の水素燃料船 水素使わず

 水素を燃料とする国内初の実証事業に使われた燃料電池船について、県が環境省から譲り受けデータ収集事業を始めた2016年度以降、水素を燃料としていないことが25日、県への取材で分かった。水素を充填(じゅうてん)する設備がないのが要因。県議会予算決算委員会で事業の妥当性を問う声が出た。

 二酸化炭素を排出しない実証事業の舞台となり、再生可能エネルギーの島として視察対応や教育に燃料電池船を活用している五島市。「水素で動いている」と思っている島民が少なくない。市は「今説明に『水素で動いている』との表現は使っていない。水素も燃料に使える船と表現している。隠していたつもりは全くない」としている。

 同省は14、15年度、国内で初めて建造された同船で実証事業。五島市椛島沖の浮体式洋上風力発電設備の余剰電力でつくった水素を生かし航行させた。だが同省から県が船を譲り受けた16、17年度は水素を燃料とせず電気で動かしている。

 県によると、16年度当初に風力発電設備を五島市の崎山沖に移設。水素製造設備も同省から譲り受け崎山地区に移した。ただ、船に水素を充?する設備は同省のリース部品で、県は新設を検討したが、維持管理コストが高く国から補助金を得られず断念したという。

 県の事業は県内でも同船を開発できるようデータを集める狙い。水素で動かす前提は崩れたが、県は「電気で走らせたデータも一定意味がある」と主張する。

 県の事業費は16、17年度で計約2600万円。予算決算委員会農水経済分科会では16年度の航行実績が28日間にとどまり、うち18日間は他県の議会関係者らの視察や地元小学生らの試乗だったと判明した。

 質問した山田博司委員(改革21・五島)は「運航状況は妥当なのか。将来的な構想をきちんと持たないのはどうなのか」と疑問視。貞方学・産業労働部次長は「新規性の強い事業なので社会経済情勢や国の予算状況を精査し、事業立案、予算化につなげていきたい」と述べた。

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