ラツィオのウルトラスと反ユダヤ主義

ラツィオのウルトラスグループが、反ユダヤ主義的なアンネ・フランクのステッカーをスタジアムに貼ったとして調査を受けているようです。このグループは、これまでも問題行動を繰り返し起こしてきました。

イタリアはセリエAの強豪SSラツィオのサポーターが、ホームスタジアムであるスタディオ・オリンピコに反ユダヤ主義的なステッカーを張り付けたとして調査する、とイタリアフットボール協会が発表しました。いまだになくならないイタリアのスタジアムでの人種差別。カルチョ界の大きな問題のひとつです。

アンネ・フランクがローマのユニフォームを着たステッカー

今回問題となったのは、アンネ・フランクがローマのユニフォームを着ているように加工したステッカー。これをスタジアムに貼り付け、さらにそのステッカーとともに「ローマファンはユダヤ人」などの反ユダヤ主義的なスローガンも貼られていたそうです。

ユダヤ系ドイツ人のアンネ・フランクは、第二次世界大戦中にナチスの迫害から逃れるために故郷のフランクフルトを後にし、アムステルダムで2年間家族とともに身を隠して生活し、最終的には強制収容所で15歳で命を落とした少女です。身を隠していた期間に書いた日記『アンネの日記』は世界中で読まれています。

これを受けてラツィオのクラウディオ・ロティート会長はローマにあるシナゴーグ(ユダヤ教の会堂、集会所)を訪れ、ホロコースト(第二次大戦中のナチスによるユダヤ人の大量虐殺)の犠牲者へ花を手向けました。

極右集団が支配するラツィオのゴール裏

ラツィオのウルトラス「イッリドゥチービリ(不屈の者たち)」や「イーグルス・サポーターズ」は、過去にもたびたび反ユダヤ主義、人種差別、外国人排斥思想を躊躇なく示してきました。

1988-89シーズンのローマダービーでは、ライバルのローマに向けた「アウシュビッツがお前らの街、火葬場がお前らの家」という大弾幕を張り、2011年の同ダービーではナチス親衛隊の旗に似た「クローゼは我らとともに」と文字が入った旗を掲げました。

2012年にはヨーロッパリーグで対戦したトッテナムで、スパーズサポーターを地元のパブで襲撃。トッテナムはユダヤ人が多く住む地域に本拠地を置いていることで有名です。

ダービーの相手であるASローマも「テスタッチョ」というローマでユダヤ人が多く住むエリアに拠点を置いているため、ラツィオウルトラスは反ユダヤ的言動を繰り返しているのです。

しかし、ラツィオのウルトラスが極右だからライバルのローマのウルトラスが極左かというと、そうではなく、ローマのウルトラスも極右として知られています。イタリア国内に限らず、ウルトラスが右寄りになる傾向はイングランドのフーリガンやイタリアの他のクラブでも、人種差別的チャントをはじめとするレイシズム(人種主義)やゼノフォビア(外国人嫌悪)があることからも見えてくるでしょう。

ディ・カーニオは元イッリドゥーチビリのメンバー

ラツィオのレジェンドのひとりであり、イングランドのウェストハムやシェフィールド・ウェンズデイでもプレーしたパオロ・ディ・カーニオは、ラツィオのウルトラスにとってヒーローのひとりです。それだけでなく、彼ももともとはウルトラスの一員でした。彼がイタリアのフットボール界に残したものは、その類まれな得点センスだけでなく、議論を呼ぶ行動でした。

3-1で宿敵ローマを下した2005年に行われたローマダービーで、試合終了後にラツィオのウルトラスが陣取るクルバノルド(北ゴール裏)でナチス式敬礼をサポーターに向かってしたのです。

その印象は強く残り、2013年に監督をしていたサンダーランドでは、フットボールではなく、彼がファシストなのか、という質問が会見で記者から寄せられることもありました。

人種差別がなくならないセリエA

ラツィオのゴール裏だけでなく、イタリアのフットボールスタジアムではいまだに人種差別がなくなりません。先日行われたチャンピオンズリーグのチェルシーvsローマ戦では、昨シーズンローマに所属し、今シーズンからチェルシーでプレーするアントニオ・リュディガーに向けてローマサポーターがモンキーチャントを行いUEFAから警告を受けました。

昨シーズンには当時ペスカーラに所属していたサリー・ムンタリに対して人種差別的チャントがあったため、同選手が審判団に抗議したものの、主審はこれを受け入れず、ムンタリは抗議の表明として自主的に退場する出来事がありました。これに対し、セリエAの規律委員会は、あろうことかムンタリに1試合の出場停止処分を課したのです。

ナポリのカリドゥ・クリバリや昨シーズンユヴェントスでプレーしていたダニ・アウヴェスにも同様のチャントが浴びせられており、これがイタリア全体の問題であることが浮き彫りになっています。

日本でも浦和レッズのサポーターが人種差別的な弾幕を張り、処分を受けたことがありましたが、一部の過激なサポーターに美しいフットボールに水を差されるのは、もうまっぴらごめんです。これは明らかに間違っていることだし、サポーターの文化として認められていいものではありません。

フットボールが持つひとつの側面ではありますが、今後イタリアがどうこの問題と向き合っていくのかは、リーグの発展を考えるうえでも重要です。

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