【トーセンの経営戦略】〈山口晋一社長に聞く〉子会社化の三輪鉄建、出荷拡大 形鋼に注力、提案営業展開

 2020年開催の東京五輪・パラリンピックや大規模再開発事業など、建設用鋼材市場が首都圏を中心にようやく上向き始めた。一方でメーカー直送に押され気味の店売り市場では、在庫特約店を中心に扱い品種の選別や加工機能の強化など環境変化に対応する動きが目立ち始めた。東日本の建材二次流通業界で最多の営業拠点数を誇るJFE商事系の鋼材流通加工業、トーセンの山口晋一社長にこれまでの軌跡と今後の経営戦略を聞いた。(新谷 晃成)

――14年4月にJFE商事からトーセン社長に転じて3年半が過ぎた。就任からこれまでの商環境と業績の遷移は。

トーセン・山口社長

 「建材流通に直接関わるのは当社が初めてで、正直なところ右も左も分からなかった。就任前にメーンで扱う鉄筋の市況がピークを迎え、入社後は3年近く下降局面に見舞われた。扱い数量が減る中で、太物から細物まで幅広くそろえるなど在庫能力は強化したが、メーカー直送の比率が圧倒的に高い鉄筋での収益アップは難しくなってきた。また東北では東日本大震災に伴う復興需要が15~16年に下降に転じ、足元では需要地が首都圏にシフトしてきている」

 「経営数値を見ると、13年度は鋼材扱い数量が50万トン、売上高が401億円。16年度はそれぞれ41万トン、302億円だった。収益性を高めるため、丸棒の数量比率を7割弱まで下げたので全体の扱い数量と売上高が減ったが、一般形鋼やH形鋼、軽量形鋼、コラムを増やしたため利益はほぼ維持できた。直近16年度の鋼材の内訳は、直送が8割、在庫2割となっている」

――形鋼の扱い比率を高めるためにこれまで手掛けた方策は。

 「当社の営業拠点は、関東・信越と東北地方に21カ所、倉庫面積では計約1万3千坪(4万3千平方メートル)を有している。鉄骨建設向けに形鋼の出荷量を上げるためには切断や穴あけなどの一次加工が不可欠で、就任当初の14年に小牛田(宮城県美里町)と埼玉(埼玉県松伏町)の両加工センターに複合機を導入した。だが機械を動かす人材の育成や安全対策に時間を要し、本格稼働までに半年以上かかった。こうした取り組みが奏功し、14~16年に棒鋼の扱い量が減少した分をカバーできた」

――今年10月には胴縁加工を得意とする三輪鉄建(青森県七戸町)を傘下に入れた。グループ化の経緯と狙いは何か。

 「次の一手を模索していた際に、以前から取引のある三輪から経営参画の打診があった。同社の胴縁加工に強く魅力を感じたが、溶接や塗装など当社にない技術が求められることから、まずは16年3月に13%出資して経営状況を確認した。当時の三輪は材料と製品の在庫拠点がそれぞれ必要で、出荷能力が限られていたのが課題だった。そこで当社が材料を即納できる体制を取ることで製品ヤードを拡充し、月間出荷量を350トンから500トンに引き上げることができた。材料手当てに苦心する必要がなくなったため三輪の資金調達能力も向上し、子会社化して社長も派遣した」

――今後の展望は。

 「胴縁加工を手掛けていると、鉄骨物件のあらゆる情報が集まってくる。こうした物件情報をいち早く入手できることからトーセンとしても攻めの営業戦略を取れるのが利点だ。今は小牛田での加工能力増強を見据え、人材を三輪に出向させて技術供与を受けている」

 「当社全体で重要なのは社員の意識改革。年配の従業員は丸棒を主体に扱っていたので、形鋼を扱うのに不慣れな面がある。今後は若手を中心に形鋼により目を向け、胴縁や屋根、壁材などさまざまな建材を武器に、顧客に対して提案力を高めた営業を展開していきたい。まずは棒鋼に対する形鋼の比率を4割に向上させるのが目標だ」

 「また加工拠点が点在する東日本北部から需要が旺盛な都心を見据えた南下政策を推進したい。そのためにも親会社のJFE商事鉄鋼建材と、35%の出資を受ける伊藤忠丸紅住商テクノスチールとも協力しながら営業拡大を図りたい」

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