【ニュースの周辺】〈神鋼のデータ改ざん問題〉「留保付き」の安全確認信用回復へ茨の道

 神戸製鋼所が、アルミ・銅製品などで検査データを改ざん、捏造していた問題で、不正品の出荷先であるユーザー約500社の多くから「自社製品の安全を確認した」と報告を受けた。10月8日の公表で約200社とした顧客数は11日公表で約270社、13日公表で約500社に拡大していた。経済産業省が12日に「2週間程度での公表」を要請した経緯はあるが、神鋼にとっても顧客にとっても安全確認がいかに急を要したかが窺われる。ただし、26日の発表で新たな不正事案を報告せざるを得なかったことを見ても、今回はあくまでも「留保付きの安全確認宣言」であり、全ての顧客が安全検証を終えるにはなお時間を要する見通しだ。

 「留保付きの安全確認」にはもう一つの側面がある。神鋼は20日、「長府製造所押出工場で未公表の寸法データ改ざんがあった。自主点検で判明した事実を管理職らが隠し、その後の緊急品質監査でも見つけられなかった」と公表。緊急監査で不正を見抜けないケースがあると知れ渡った。神鋼はこの事案を踏まえ、川崎社長をリーダーとする品質問題調査委員会に代え、不適切行為に関する調査や原因究明と再発防止策を外部調査委員会に委ねる。長府のような事案が新たに発覚しないことを願うが、現時点で全くないと断じることは残念ながらできない。

 今回の安全確認の公表を経て、神鋼材の採用は復調するのだろうか。不正行為が見つかった当該製品に限らず、同業他社で「ユーザーから引き合いが寄せられた」事例がある。20日の会見でも梅原副社長は、信頼低下による失注、転注が「全くないかと言われれば、ある」と認めている。

 自動車で見れば、神鋼材はエンジン、足回り、車体などあらゆる部位、膨大な数の部品に使われる。鉄道車両、航空・宇宙、電機での神鋼材の用途も多岐にわたる。今回の安全確認で一般消費者や利用者に一定の安心感が広がり、神鋼材への社会的認知が改善され、事態はある程度落ち着いていくと予想されるものの、新たな不正事案の報告で期待感はしぼみがちだ。アルミ板や銅条をはじめ需給タイトな品種では、サプライチェーンがいつ正常化するのか、需給双方の業界関係者が気を揉んでいる。

 今回、神鋼は自らの手で不正を掘り起こし、顧客に伝えて善後策に取り組み、外部にも公表した。その指揮を執った経営陣への評価は、本件に基づく出処進退の話とは別に、正当になされるべきものだ。ただ20日までの公表分だけでも、ここ数年間にグループの国内11工場、海外5工場で不正が行われ、16年9月~17年8月の1年間に出荷した銅・アルミ製品のうち不正品が4%(金額)もあったという事実は重く、神鋼がこれから払う代償は大きい。

 安全確認が進んだ以上、顧客によるリコール(回収・無償修理)の可能性は小さくなったが、いくつかの製品では市場シェアの低下や新規承認取得の遅れが免れないだろう。顧客の検査費用の負担は自己資金で十分賄えるにしても、損害賠償責任を負う可能性はあり、財務面でも激震が走る懸念は残る。

 不正行為自体が顧客や需要業界、ひいては社会全般に与えた衝撃と不安、その後に五月雨式に新たな不正や法令違反が発覚したことで露呈したガバナンスの弱さは、神鋼及び神鋼グループの信用力を失墜させた。法令違反に関する認識の不確かさ、法令違反の可能性に言及した際の理論武装の甘さも社会不安を増幅させた。JIS認証機関による国内外のグループ工場の検査の結果も待たなければならない。

 失地からの回復は、さらなる安全確認、さらに原因分析と再発防止策が出た後も月日を要するに違いない。だからこそ、一日も早く安全確認を完了する日が来て、正しい原因分析、実効ある再発防止策の策定がなされる時が待たれる。(谷山 恵三)

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