人生模様見える時間外窓口

 長崎市役所本館。裏口にある守衛室には、夜間や休日に市民の届け出を受け付ける「時間外窓口」がある。ここでは毎年約千件の婚姻届を受け付けており、開庁時間を含む総件数の半数近くを占めるという。どんな人が時間外窓口を利用するのだろう-。数日密着してみると、カップルのこだわりのほか、喜びだけではない人生模様も見えてきた。

 13日午前0時すぎ。本館裏口から緊張した面持ちの男女2人が入り、一枚の紙を窓口に差し出した。守衛室の男性職員から「おめでとうございます」と声を掛けられると、2人は笑顔を見せた。長崎市の前田廉さん(27)と綾子さん(27)は交際を始めた1年前の同じ時刻を選んで来庁。挙式はまだ先だが、「きょうはやっぱり特別な日ですね」と新婚の2人。職員にスマートフォンを渡し、婚姻届を手に写真を撮ってもらった。

 長崎市によると、2016年度に婚姻届を窓口で受理した総件数は約2200件で、うち時間外は約千件。中でもクリスマスの12月25日が24件、「いい夫婦の日」の11月22日が15件、七夕の7月7日が13件と多い。最近は大安と並ぶ吉日とされる「一粒万倍(いちりゅうまんばい)日」に訪れる若いカップルも目立ち、市の担当者は「提出日へのこだわりを感じる。男女とも仕事があるので結果的に時間外が増えるのではないか」とみている。

 婚姻届は全国の市町村で提出でき、沖縄などの有名観光地では旅先の思い出に出すケースがある。長崎市の時間外窓口の担当者も「大型連休中には旅行中のカップルも見ますよ」と話し、観光地のブランドも影響しているようだ。

 各自治体は法務省の規定に基づき時間外窓口を設置しているが、なぜ24時間で受け付ける必要があるのか。同省の担当者は「皆さんの希望に応じるためだと思いますが、その理由を聞かれても...」。

 そんな疑問に、窓口で出会った葬儀社の男性従業員が答えてくれた。「死亡届があるからじゃないかな。すぐに受理してもらわないと火葬ができないので私たちも困る」。長崎市が16年度に時間外で受理した死亡届は約2150件あり、婚姻届の2倍超。こちらがメインとも言える。

 時間外窓口では離婚届や出生届なども受け付けている。今年7月まで守衛室で8年間働いた元市職員の原孝幸さん(69)は窓口業務をこう振り返る。「たくさんの職員がいる通常の窓口とは異なり、時間外は主に一人で対応する。一人一人の人生に喜びや悲しみの節目があることを身に染みて感じる仕事でしたね」

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