【工場ルポ】〈芝浦グループ創業85年〉《インドネシア・バタム工場①》最新鋭厚板加工拠点が軌道 建機向け顧客サービス強化

 厚板溶断加工業大手の芝浦シヤリングを中核とする芝浦グループ(大川宏之代表)には、インドネシアに展開する建機向け厚板加工事業拠点が2社ある。06年2月に操業を開始した「PT芝浦シヤリングインドネシア(SSI)」と一昨年8月に稼働した「PT芝浦インドネシアバタム(SIB)」だ。昨年来の建機需要の好転に伴い、両拠点とも受注量が回復し、目下は繁忙感を取り戻している 。

バタム工場建屋

グループ海外戦略強化は「2社一体で」

 芝浦グループではSSI、SIBのインドネシア両社を海外事業戦略の「要」と位置づけ、人材交流も含めて「一体運営」していく考えだ。顧客に対するサポートとサービスを「一体」で手掛けることで切板サプライヤーとしての役割を果たしていく。

 そのうえでバタムは「自由貿易地域(FTZ)」であることから、SIBでは将来的にインドネシアのみならずその周辺国・地域への独自の市場開拓・拡販も視野に入れており、そのためにも今ようやく軌道に乗った最新鋭の厚板加工工場のQCD(品質・コスト・納期)競争力を磨き「現場力」強化に取り組んでいるところだ。

 芝浦グループが今年3月に創業85周年を迎えたのを機に、10月初旬に開催した「グループ記念事業」の一環で日本国内に在籍する社員がSIBを訪問。工場・設備・事務所を見学すると共に現地スタッフとの親交を図った。同行する機会を得たので概要を紹介する。

「顧客の助言」きっかけにバタム進出

 バタム島は、インドネシアのリアウ諸島州に位置し、北緯1度の赤道直下に位置する。もともとは小さな漁村だったが、1978年に島全域が保税地区となり、07年には「自由貿易地域」に指定されたのを機に外資企業がバタム島に進出。人口も、この50年間近くでかつての7千人規模から110万人以上に増えた。

大川SIB社長(芝浦シヤ社長)が工場案内(右から2人目)

 芝浦グループでは、日本における厚板溶断部門の最大顧客である日立建機のインドネシア現地法人、日立建機インドネシア社との合弁で05年7月に西ジャワ州ブカシ県で建機向け溶断加工を手掛ける「芝浦シヤリングインドネシア(SSI)」を設立し、翌06年2月から操業を開始した。

 当初は切板加工部品の全量を現地の日立建機向けに供給していたが「あるとき日立建機のある方から、インドネシアで根づくためにほかの仕事も手掛けたらどうか」と助言され、実際に新たな納入先も紹介された。

 それが、日本ではこれまで取引する機会のなかった米キャタピラー社(CAT)向けであり、これがそもそものSIB設立の発端となる。SSIでは日立建機向けを主軸としつつ現地のCAT向けの実績も重ねていった。

 そのうちにCATが、東南アジアにおける生産拠点としてバタム島でのダンプベッセルの生産工場建設を計画することになり、それに伴って部品サプライヤーを募った。

「世界コンペ」に勝つ

 SSIのそれまでの納入実績が評価され「バタムサプライヤー選定コンペ」への参加を打診される。採用条件には(1)価格(2)品質(3)資本とともに(4)「One Hour Delivery(出荷から納品に掛かる時間が1時間以内)」の4要件が必須であり、これすなわち「バタム島への工場進出」が絶対条件となることを意味している。

 SSIでは日立建機側に相談し、了承を得たうえでコンペ出場を決める。日立建機からは「挑むからには何としても勝ってもらいたい」と背中を押されたという。

 コンペには世界各国から数十社がエントリーし、約2年の歳月を費やして見積もり、製品品質、資本条件をクリアし、CATからバタム島での専任サプライヤーに認定される。この結果を受け、芝浦グループでは「バタムでのCAT向け厚板切断・開先・曲げ・機械加工・溶接の複合一貫生産工場建設」を決意した。

 さっそくバタム進出計画に着手し、2012年の秋から年末にかけて工場建設予定地を取得。CATバタム工場から車で3分という絶好のロケーションだ。

 翌13年4月に新会社「PT芝浦インドネシアバタム(SIB)」を設立する。社長は、当時から今もSSIの社長を務め、のちに芝浦シヤリングの社長となる大川伸幸氏が兼務した。(太田 一郎)

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