帰宅困難者対策は補助や外部協力拡大で 東京都、民間の備蓄や受け入れを促す

都では首都直下地震に向け、帰宅困難者対策に注力している

最大で都内約517万人

災害時の一斉帰宅を抑制し、企業に備蓄を促し都が帰宅困難者の一時滞在施設確保に努める「東京都帰宅困難者対策条例」が施行されて4年が経過した。都内一時滞在施設の受け入れ人数については7月1日現在で32万8374人と目標である92万人の3分の1程度にとどまっている。首都直下地震が発生した場合、500万人以上の帰宅困難者の発生が予測される東京。都の取り組みについて取材した。

「発災後72時間は救命に重要な時間。この時間帯に道路に人があふれては救命活動に支障が出るし、余震による二次災害の危険も増す」と語るのは都総務局総合防災部事業調整担当課長で帰宅困難者担当の永井利昌氏。発災後の一斉帰宅を抑えるためにも都は企業に対し従業員3日分の備蓄に加え、来社中の顧客や屋外の帰宅困難者などのために10%程度の量の余分な備蓄に努めるように呼びかけている。都が帰宅困難者ハンドブックで示す1人あたり3日分の備蓄の目安は水9L、主食9食、毛布1枚、さらに簡易トイレや衛生用品などについても準備を呼びかけている。簡易トイレについては内閣府のガイドラインでは1日5回分、3日だと最低15個が望ましい。

しかしなかなか現状は厳しい。東京商工会議所が会員企業に対し今年行った調査では、従業員向けの3日分の備蓄を行っている企業は飲料水で50.1%、食料で46.2%、トイレで34.5%、毛布で58.4%にとどまる。従業員分に加えさらに10%以上備蓄をしている企業は19.0%となっている。

一時滞在施設の確保状況も深刻だ。2011年の東日本大震災の際には帰宅困難者が首都圏全体で約515万人、都内で約352万人が出たと内閣府では推計。首都直下地震が起こった場合、都内だけで約517万人の帰宅困難者が出ると予測されている。都では帰宅困難者の一時滞在施設について受け入れ92万人を目標としているが、7月1日現在918施設、受け入れ人数32万8374人にとどまっている。

一時滞在施設については受け入れ施設が問われる責任の壁も大きい。現在の民法では助入れた帰宅困難者が施設内でけがをした場合、施設管理者が責任を問われる可能性が高い。このため、特に民間施設では受け入れに二の足を踏みがちになる。都では条例制定ではなく「全国的に対処が必要な問題であり、法改正こそが根本的な解決となる」(永井氏)として国に対して受け入れ施設が免責となるよう法改正を要望。都の帰宅困難者対策の検討会議に委員を出している内閣府でも検討を進めているが、この問題の解決が今後の対策に大きな影響を与えるだけに、早急な対応が望まれる。

都の帰宅困難者対策や企業の取るべき対策を説明する永井課長

外部協力を充実へ

都でも備蓄や受け入れ施設の確保については手をうっている。水、食料、簡易トイレ、毛布またはブランケットいった帰宅困難者向け備蓄品の購入について、条件を満たせば購入費用の6分の5の都による補助を2013年度から実施している。

交付対象となる施設は、都内区市町村と帰宅困難者受入協定を締結していること、従業員向けの3日分の備蓄品を完備していること、BCP(事業継続計画)か防災計画を策定していることが条件。

補助対象備蓄品は、まず都が指定する備蓄品である水(1人1日当たり3L)、食料(同3食)、簡易トイレ(同5個)、毛布またはブランケット(1人当たり1枚または1個)。この4品目が完備されていれば都の推奨備蓄品であるマット(シート、寝袋、付属品含む)、おむつ、生理用品、救急セットの購入も補助対象となる。指定備蓄品の一部の備蓄が完了している場合、指定備蓄品と推奨備蓄品を組み合わせた購入でも補助対象となる。

補助金額は1人当たり3日分の購入費用の6分の5。経費の上限は9000円のため、1人当たりの補助金上限額は7500円。

一時滞在施設についても池袋駅、上野駅、渋谷駅、新宿駅、東京駅の5つの主要ターミナル駅から半径2.5kmにおいて、帰宅困難者を受け入れる民間施設が受け入れスペース、防災備蓄倉庫、非常用発電機、貯水槽の整備を行う際の3分の2の補助を7月から募集開始した。

補助要件は、大規模災害時に100人以上の帰宅困難者を受け入れる協定を区と締結すること、前述の5駅からおおむね半径2.5km以内であること、通常在館者と帰宅困難者が3日間滞在できる備蓄品の保管倉庫を確保すること。

補助の対象となる設備は1.受け入れスペース2.防水備蓄倉庫3.非常用発電機4.貯水槽。補助金額は補助対象経費の3分の2。ただし、帰宅困難者の受け入れ人数に10万円を乗じた額と補助対象経費の3分の2と比較して、小さい方の金額を上限とする。

都宗教連盟関係者と記念撮影に応じる小池知事(中央)。寺社など都内約4000カ所の一時滞在施設利用を目指す

9月に大きな動きもあった。東京都宗教連盟が寺社など都内約4000カ所の宗教施設の一時滞在施設としての提供を小池百合子知事に申し出た。小池知事も「申し入れは心強い」と歓迎。具体的な取り組みはこれからだが、基礎自治体である区市町村と宗教施設との協定が順調に結ばれ、すべての宗教施設が帰宅困難者を受け入れることになれば、利用できる施設は現状の5倍以上となる。

公立小中学校は住民の避難所になり、帰宅困難者向けの施設としては区民センターなどの利用を見込むが、都や区市町村の公的施設では限界がある。管理者免責や負担減などの問題を解決し、受け入れ先を増やす施策が喫緊の課題である。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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