《お多福美人講座》きれいな女は揃ってる

illustration: Yu Fukagawa

 置屋に住み込みを始めてすぐ、夕方四時のご飯のときに、お茶碗の持ち方について注意を受けました。お箸の持ち方や食べ方はきちんとしているつもりだったので、「お茶碗の持ち方、それじゃダメよ」と言われても、何が悪いのかわかりません。「ど、どこが…」とおずおず尋ねると、高台の下にある四本の指に隙間があるとのこと。慌てて指先を揃えながら、ご飯茶碗の高台の下の指のことまで考えたことがなかったなぁと思いました。よく考えてみれば、日本舞踊では必ず指先はきれいに揃え、反るほどに指を伸ばします。茶道で茶碗を持つときも、グラスやお銚子を持つときも指先は揃えます。そんなとき、わしづかみの指をしていたら興ざめです。揃えるという行為は仕草の美しさと切っても切れないのだと、あらためて感じた出来事でした。

 指のほかにも、揃えないと見苦しいのが膝。正座でも椅子でも、膝が開いているか揃っているかで、受ける印象がまるで違います。私は踊りが下手で、初めは膝を縛ってお稽古しなさいといわれたほど。ここが開いていると醜くなってしまう、重要なポイントなのです。

 揃えて美しくなるのは、所作だけでなく部屋も同じ。ワンルームに優雅に暮らす友人の部屋は、ものが多いにもかかわらず、整然として落ち着きます。なぜならその部屋は、靴もベッドも本棚も、引き出しの中のパンストまでも美しく揃えて置いてあるから。彼女はそれだけの量を管理する能力があるので、部屋に調和が生まれるのです。私が同じ量のものを持てば、まちがいなく部屋はカオスになるでしょう(笑)。

 自分の適量を超えると、きれいに揃えるのは無理になります。よくばって何かをつかんだり、疲れすぎていたり、意識が散漫になると、指も膝も開きます。「揃える」を意識することは、美しく、自分らしく生きるための手がかりなのです。

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