いじめ、暴行…「集団心理」が招く危険な結果

人が集団になると、いじめや暴行、暴動などの極端な行動が起こることがあります。

群衆の意見は極端に走りやすい!?

人が何人も集まる場所では、なぜかどこでも誰か1人の人に対しての非難・批判で盛り上がったり、仲間はずれやいじめが起こったりします。誰もが不快なこと、避けたいことだと思っているのに、どうして同じようなことが起こってしまうのでしょう。

人は集団のなかで討議をすると、個人の意見よりも極端な意志決定になる傾向があるといわれ、これを「集団極性化」といいます。

たとえば、ネットの掲示板では、議論が一方向に流れると違う切り口の異見が叩かれ、議論が一方向に極端に暴走していくことがあります。ブログやSNSでは、ネット上で誰かが批判されると、そこに他人も同調し、とことん槍玉に上げられて炎上し、閉鎖に追い込まれてしまうこともあります。

このように、ネット上で集団極性化が起こる現象を「サイバー・カスケード」と呼びます。

集団論議はどこに向かうのか?

集団極性化には、「コーシャスシフト」と「リスキーシフト」の2つの側面があります。

コーシャスシフトは、集団で決めた決定が、個人で決めるよりも、慎重でより安全志向になることをいいます。議論を重ねるごとに、リスクをとることを怖れて消極的で現状維持に治まり、結局はいつまでも効果的結論が出ずに、ずるずると同じようなやりとりを引きずっているような場合、議論がコーシャスシフトに傾いていると考えられます。企業の会議や行政の議論などで、コーシャスシフトはよく見られます。

一方リスキーシフトは、集団で決めたことが、個人で考えるよりも危険性の高い決定になることをいいます。

たとえば、先に紹介したサイバー・カスケードのように、ネット上で誰か一人を集中攻撃したり、サイトが炎上する現象は、リスキーシフトの代表例です。学校などでしばしば問題になる「集団いじめ」や「集団暴行」もそうですし、国や政治を脅かす暴動やテロリズムにも、リスキーシフトの側面があります。

傍観者が多いほど助けの手は少なくなる!?

では、集団行動がリスキーシフトに傾き、いじめが発生しているとき、周りにいる人はどのように反応するものなのでしょうか? 実は誰もが「やめたらいいのに」と思っていても、そう言えずに問題を放置してしまうことは多いものです。

このように、自分の他に傍観者がいることで積極的な行動を起こせなくなってしまうことを「傍観者効果」といい、周りに傍観者が多いほどこの効果が高くなるとされています。この傍観者効果が生じる背景には、

1. 責任分散:他の人がいることで、一人の責任が分散する

2. 多元的無知:周りの人も行動しないので、行動する必要がないのだと勝手に判断してしまう

3. 評価懸念:自分が行動することで、周りにどう見られるかを怖れる

の3つの要因があります。

「いじめ」にかかわる集団極性化と傍観者効果

このように、集団心理はときに極端になることがあり、またそれを取り巻く傍観者も積極的な介入に踏みこみにくい、という特性があります。

たとえば、いじめの場合、最初は友だちの一人を冗談でかまっているだけのつもりが、同じようにかまう仲間が増えてくると集団極性化が起こり、あっという間に集団いじめに発展していくことがあります。このいじめが続くことで、果てには自殺にまで追いつめられてしまう事件もたくさん起こっています。

また、それを見ている傍観者の心理にも、「自分だけが目撃したわけではない」「誰も止めないなら、大した問題ではないのだろう」「止めに入れば、今度は自分がターゲットにされる」というように、責任分散、多元的無知、評価懸念という傍観者効果が生じて、問題を放置してしまいがちなのです。

問題の芽は小さいうちに摘む

したがって、こうした集団心理の特性をよく理解し、小さな事件が大きな問題へとエスカレートする前に、今起こっている現象をよく検討する必要があります。

自分自身が加害者になる可能性を少しでも感じたら、そこで立ち止まり、ただちにその行動を止めること。「集団極性化」のリスクを説明して、仲間にもやめさせること。反対に、被害者になってしまう可能性を感じたら、ただちに信頼できる人に(効果がなければ、複数の人や機関に)相談し、1人で抱えないこと。

そして、見ている側も傍観者効果によって被害を放置してしまうリスクに気づき、周りの傍観者と相談して一緒に止めに入ること。あるいは信頼できる人、機関に相談して一緒に対策を考えること。

こうしたことを頭に入れておけば、事態のエスカレートを防ぐことができると思います。世の中を驚かせる大きな事件は、意外にささいなことから発生することが多いものです。集団効果でその問題を大きく発展させることのないように、一人ひとりが集団心理の特性を理解しておくことが、大切なリスク管理につながるのではないかと思います。

(文:大美賀 直子)

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