多くの日本人がプレーするタイリーグのリアルな現状

今回は大津一貴選手に知られざるタイ・リーグの現状について語っていただきます。とても興味津々であります。

 私が所属したカンペーンペットFCは、今シーズンから新たに創立された【リーグ・チャンピオンシップ(League Championship)】と呼ばれるリーグに属しています。このリーグは、タイの3部リーグに相当します。(Jリーグで言うとJ3)

 昨シーズンまでは、1部が『タイ・プレミア』。2部が『タイ・ディビジョン1』。3部が『ディビジョン2』とカテゴリー分けされていました。1部リーグと2部リーグは、全国リーグ。3部のディビジョン2は、地域リーグ。

 その3部にあたるディビジョン2の各地域2016年リーグ上位チームが、2017年から新設されたリーグ・チャンピオンシップへ参加することになりました。

 さらに、リーグ・チャンピオンシップは北部リーグと南部リーグに分けられており、2リーグ構成となっております。

 まとめると、今シーズンのタイリーグは1部が『タイ・プレミア』。2部が『タイ・ディビジョン1』。3部が『リーグ・チャンピオンシップ』。4部が『ディビジョン2』という構成になっております。なかなか複雑ですが、この4部リーグまでがタイのプロリーグとなっています。

チームとの契約までの経緯

 タイへ渡航したのが2017年のお正月。そこから1週間ほどバンコクで調整した後、カンペーンペットFCへトライアル(テスト)を兼ねて合流しました。今年のタイ3部リーグのレギュレーションは、外国人選手登録が1チーム5人まで。試合に出場できるのは3人+アジア枠1人+アセアン枠1人。外国人選手がチームと契約するためには、全部で5つの椅子を他の外国人選手と争わなければなりません。私が合流した際には、既に2人の外国人選手がチームと契約を済ませていたため、空いている席は事実上3つ。更に、トライアルを受けている外国人選手は10人以上という状況でした。

 私はトライアルに来ている外国人選手の中でも、一番遅れてチームに合流。そして、合流初日がいきなり練習試合でしたので、契約を勝ち取るためには、目に見える結果(=ゴール)を残すことが求められている状況であることは明白でした。その練習試合では、途中から試合に出場し、無事に1ゴール。自分でも驚くようなオーバーヘッドでゴールを決めて、インパクトを残すには十分だったと思います。その結果、次の日からもチームに帯同することを許されました。後に聞いたのは、この練習試合で外国人選手の人数を絞り、更に次の練習試合で契約する残り3人の選手を決めるとのことでした。

 次の練習試合でも1得点することができ、無事にカンペーンペットFCと契約。私はチームへ合流してから1週間程で運良く契約を勝ち取ることができましたが、トライアルを受けに来ていた他の外国人選手の中には、1ヶ月程チームに帯同していたけど契約できなかった選手も多かったようです。

粘り強く勝つことができた前半戦、全く勝てなかった後半戦

 シーズンは2月上旬に開幕し、リーグ戦が9月中旬~下旬頃まで。その他にカップ戦が勝ち進む限り、試合があります。

 私が所属したカンペーンペットFCは、リーグの前半戦は常に1点差ながら粘り強く勝利を掴み取る試合が多かったです。私自身も4試合連続で決勝ゴールを決めるなど、結果でチームに貢献することができた時期でもありました。他のチームと比べると、戦力的には厳しいチームだったとは思いますが、常に全員攻撃全員守備でチーム一丸となり、強い相手にも戦えていたと思います。

 しかし、リーグ後半戦は全く勝利することができませんでした。ホームで勝てた相手にアウェイ0-5で大敗してしまったり、どんなに粘り強く守ってもゴールを決めることができず0-0という試合が多かったりと、勝ち点3を取ることができないチームになってしまいました。勝てない理由は様々あったと思いますが、改めて振り返ってみると、そのような勝てない経験も今の私には必要な経験だったと思います。

多くの日本人選手と対戦

 近年多くの日本人選手がプレーするタイリーグ。今年は、1部から4部までのカテゴリー全て合わせると約60人の選手がプレーしています。私がプレーした3部リーグにも、多くの日本人選手がプレーしていました。同じカンペーンペットFCにもDF圍清隆選手が所属。対戦相手にも多くの日本人選手が所属しておりました。

実際にタイで1シーズンプレーした私が考える、日本人選手が多くプレーする理由は…。

 

 まず、タイという国自体が、日本人にとって馴染みやすい環境であることだと思います。日本からアクセスしやすい場所にあり、親日家が多いのもこの国の特徴の1つ。在留日本人も多く、バンコクなどの主要都市では多くの日本人と出会うことができます。物価も安く、生活するにも日本と比べるとお金がかかりません。極端なことを言えば、チームとの契約額が低くても現地ではサッカーだけで暮らすことができる環境があると言えるのではないでしょうか。日本での経歴が無い選手が、プロキャリアをスタートさせるためにタイへチャレンジするのも、このような理由が関係していると言えるでしょう。

 次に考えられるのは、サッカーに対してとても熱狂的な国だということ。小さな子供たちは勿論、大人達もサッカーのユニフォームを着て毎日生活しています。昔からプレミアリーグが放送されていた影響から、「俺はリバプールのファンだ!」とか「昔からマンU一筋だ!」という会話もよく聞きました。国内リーグでも人気チームには多くのサポーターが試合に駆けつけています。それは、トップリーグに限ったことではありません。私がプレーした3部リーグでも、あるアウェイの試合では5000人ほどのサポーターが動員されており、物凄い熱気の中でプレーしました。ちなみに、そのチームは今年の昇格決定戦にて約8000人ものサポーターがスタジアムに集まったようです。3部リーグでも、このような盛り上がりを見せるタイリーグは、実際にプレーする選手にとっても魅力的であると思います。

 また、実力のある選手には高額な報酬を与えられる可能性もあります。J3で働きながらプレーする選手が居る一方、タイ3部でも高額の年俸でプレーしている選手が居るのも事実です。2部や1部のチームになると、更に給料が跳ね上がる可能性もあります。4部のチームでも、資金力のあるオーナーが居るチームは、多額の報酬が与えられているようです。価値観は人それぞれですし、お金が全てではないかもしれませんが、タイドリームを掴むチャンスがあるのは、選手にとっては大きな魅力の1つではないでしょうか。ただ、念を押して言いますが、すべてその選手の実力次第だということをお忘れなく…。

 このような理由から、多くの日本人選手がプレーする国の1つとなっていると思います。逆に言うと、日本人だけではなく、世界中から外国人選手が集まってきているリーグです。チームとの契約を勝ち取る競争は激しいですし、契約できても活躍しなければ簡単にクビになる世界。契約書もあってないようなもの。そのような世界で生き残るために、多くの日本人選手がタイ人選手だけではなく、世界の選手を相手に戦っているリーグです。

 私も日々競争が激しいリーグで、1シーズン戦い抜くことができたことは、自分自身の大きな成長へ繋るシーズンだったと思います。

大津一貴 / Otsu Kazutaka (@kazuuu02) | Twitter

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