【ラン鉄28】五輪のインパクトと_妄想のイノセントと

「ぶわっ、まぶしいっ」 
 老眼がすすむ中年ラン鉄の視界が一面オレンジに染まる。羽田空港へ着陸態勢に入った旅客機が、大きく左旋回し、傾く機体の窓から西日が差し込んだようだ。窓の向こうに映る都心にピントを合わせると、ビルの足元を走るクルマや電車が、ギリッギリ、見えた。
 シンカンセン、チカテツ、モノレール、バス、タクシー…。
 東京には、いろいろな移動がある。
 これ以上、新しい乗り物は出てこないっしょ、なんて思ってたら、2027年にリニア中央新幹線が品川と名古屋の間を駆け抜けるとか。
 リニアほどビッグな話題じゃないけど、2度目のオリンピックへ向けて、都心の道路や線路のあちこちが、ゴゴゴゴゴと音をたてて動き始めている。

都電荒川線…ノスタルジー感一蹴

 中年ラン鉄が目を丸くしてビビッた現場は、都心ではなく、下町。
 東京で最もスローな電車、都電荒川線が、「まさかの進化」を遂げている。
 都電の線路脇では、じいちゃんばあちゃんが超マイペースで歩き、子どもたちがチャリで走っている。そんな下町住人に混じって、カラフルな電車がゆっくりと通り抜けるという感じだ。
 そんな都電の小台駅や荒川遊園地前駅の周辺が、ガラリと変わった。
 生活道路と都電の新しい共存を目指し、線路や駅が移設され、リニューアル工事がゴトゴトとすすめられている。
 豊島区の雑司が谷付近も、鋭意工事中。都電はすでに、「どこかなつかしい」なんて、言ってる場合じゃない。

JR上野東京ライン…北臭さ消臭

「石川啄木も、『マジか!』だよコレ」
 北の玄関口、上野。その存在感をまたも逸する、激烈な変化が、起こる。
 上野東京ライン、という直通化だ。
 北の東北線、高崎線、常磐線と、南の東海道線がレールで結ばれ、「ふるさとの訛」を懐かしむヒマもないまま、一気に都心をスルーできてしまう。
「上野発の夜行列車」と始まる演歌があったけど。夜行列車も、もはや死語。

メトロ日比谷線…五輪と道連れ

 地下鉄日比谷線は1964年の東京オリンピックにあわせて開通した路線。
 ゴリゴリ突貫工事でつくった地下鉄だからか、そのほとんどが大きな道路の真下を通っている。道路の交差点を右折・左折するように急カーブが連続するので、鈍足。電車は車体を傾けながらひたすらゆるゆると、走る。
 五輪にあわせて生まれた日比谷線は、平成の五輪に向けて、再び動き出した。
 虎ノ門駅と神谷町駅の間に、新駅をつくる。さらに新型車両をつくってホームドアを設置するとか!

JR東海道貨物線…羽田バズーカ

 虎ノ門ヒルズの足元に立ち、新しい駅前のにぎわいを妄想。さてお次は…。
 都心の鉄道は、あちこちで進化しているけど、こちらもインパクト大。
 なんと、東海道貨物線を旅客化して、羽田空港と都心を結ぶ新たなアクセスをつくるという、夢のような計画…。
 埼京線や京葉線の電車が羽田空港へ向かう姿を妄想し、脳内フリーズ。
 モノレールと並んで走る首都高速も大工事が始まるっていうから、「きのう眺めた光景がきょうセピア色になっていた」って感じだろか…。
 衝撃とジェットエンジンの逆噴射音で現実に戻された。この羽田空港も、新たな滑走路をつくる案があるとか。
 想像力、電池切れ。また今度。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2014年12月号に掲載された第28回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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