【秋の褒章】小溝氏(阪大名誉教授)に紫綬、新日鉄住金の大畠氏ら黄綬

 政府は2日付で秋の褒章受章者を発表した。発令は3日。本紙関係では、大阪大学の小溝裕一名誉教授が、学術・技術分野などの功労者に贈られる紫綬褒章の栄に浴する。また、新日鉄住金・大分製鉄所の大畠英治氏らが、長年一つの仕事に打ち込んできた卓越技能者に贈られる黄綬褒章を受章する。伝達式は14日に各省庁などで行われる。

 紫綬褒章を受章する小溝氏の専攻は溶接・接合工学。放射光を利用して溶接時の金属の様子をその場で観察する方法を世界で初めて開発した。この方法を使って、低炭素低合金鋼の溶接時の組織生成挙動や高強度鋼の水素脆弱化に関する研究を進展させた功績が認められた。2009年に文部科学大臣表彰科学技術賞受賞。日本鉄鋼協会会員。

 秋の褒章の本紙関係の受章者は次の通り。

 【紫綬褒章】

 ▽小溝裕一氏(67歳、大阪大学名誉教授)=溶接・接合工学

 【藍綬褒章】

 ▽春山紀泰氏(76歳、元日本鍛圧機械工業会代表理事会長)▽今村順氏(62歳、元中部金属熱処理協同組合理事長)▽葛村和正氏(64歳、西部金属熱処理工業協同組合理事長)

 【黄綬褒章】

 ▽吉川伍郎氏(70歳、シルド社長)=金属製品製造業▽鶴崎慎二郎氏(62歳、津久見石灰石生産部生産課作業責任者)=鉱山保安業務▽大智靖志氏(62歳、大智鋳造所社長)=鍛工品製造業▽相田豊氏(69歳、豊國海運社長、日本内航運送取扱業海運組合理事長)▽浅田義彦氏(56歳、シマブンコーポレーション生産事業部高砂事業所鋳鍛鋼室資材係係長)=製鋼工▽井武敏氏(69歳、山九重機工機工部京浜グループ主任)=産業用機械組立工▽井手口勉氏(53歳、井手口鉄筋社長)=建築鉄筋工▽井村俊治氏(57歳、アスモ生産技術開発部型プロジェクト担当次長)=金属工作機械工▽大草勉氏(68歳、宇部スチール生産本部鋳造製造部鋳造課)=手込造型工▽大畠栄治氏(61歳、新日鉄住金大分製鉄所設備部製鋼整備室精錬整備課RH機械整備)=機械修理工▽澤田秀夫氏(65歳、元新日鉄住金鹿島製鉄所設備部設備管理室)=機械修理工▽仲摩吉成氏(57歳、日鉄住金テックスエンジ機械事業本部大分機械センター大分工場係長)=溶接工▽帆足正人氏(67歳、神鋼エンジニアリング&メンテナンス機電事業部機械本部整備部加古川機械整備室)=溶接工▽森田充泰氏(62歳、JFEスチール西日本製鉄所福山地区設備部設備技術室シニアエキスパート)=機械修理工▽安田信一氏(54歳、神戸製鋼所真岡製造所製造部溶解室係長)=非鉄金属溶解鋳造工

鉄鋼関係など受章者の言葉

大畠栄治氏(新日鉄住金大分)

 「佐伯市で1人暮らしをしている母が、去年の現代の名工表彰でも喜んでくれたが、今回は特に喜んでくれています」とほほ笑む。

 1974年に大分製鉄所に入社以来、一貫して製鋼工場の整備保全業務に携わり、世界最大級の真空脱ガス装置(RH設備)の点検・整備業務を担当。

新日鉄住金大分・大畠氏

 高度な知識と豊富な経験を踏まえて設備の運転状況(圧力、音、振動)から異常箇所・原因を素早く特定し、必要最小限度の修理で健全な状態に回復させる技能を有する。

 今回の受賞は「非常に光栄です。私自身の努力だけでなく、上司、先輩、同僚の助言と応援などがあってこそ」とし、「若い人の励みにもなると思うので、恥じないような行動をしていきたい」

澤田秀夫氏(新日鉄住金鹿島)

 製鉄所の機械整備分野で幾多の改善を成し遂げてきた功績が認められた。

 1967年に当時和歌山市にあった「住友金属工業高等学園」の門をくぐり、以来50年にわたって設備管理・機械修理の道を歩み続けてきた。74年に鹿島製鉄所に赴任。鍛接管工場、熱延工場を中心に特に圧延関連の設備保全に精通する。

新日鉄住金鹿島・澤田氏

 世界に先駆け84年に熱延工場に導入されたサイジングプレスの改善は功績の一つ。想定外の機械トラブルにも経験を応用し改良に成功。修繕費の半減も成し遂げた。

 「設備は日々状態が変わる。生き物のよう」と澤田氏。いち早く弱点を見抜き先手を打つ「攻めの保全」の姿勢も後進に伝えている。

森田充泰氏(JFEスチール西日本・福山)

 2015年に「現代の名工」に選ばれたのに次ぐ栄誉となる。困難な課題にも果敢に取り組んで課題解決を図ってきた姿勢から、社内外で人望が厚い。

JFEスチール西日本福山・森田氏

 日本鋼管福山製鉄所入社以降、製鉄圧延設備のメンテナンス業務に長年従事。設備機能向上や寿命延長、製品品質向上と低コストメンテナンス技術といった各種技術を確立。厚板製品搬送チェーン精度管理向上、熱延鋼板製品腰折れマーク防止、冷延鋼板では表面への異物付着防止と通板安定化などがその一例。後進育成にも熱心で、安全に妥協しない職場風土改善を実施。「保全のプロは怪我をしない、させないこと」との強い信念を持つ。現在はシニアエキスパートとして若手育成・諸問題改善にあたる。

仲摩吉成氏(日鉄住金テックスエンジ)

 1981年に、太平工業(現日鉄住金テックスエンジ)に溶接工として入社以来、溶接分野におけるものづくりに携わってきた。

 優れた技能・知識をベースにした確実な施工管理により、超高圧配管や圧力容器など数多くの溶接品質の高い製品を提供。大分県初の九州溶接マイスターであり、現在は県溶接技術協議会審査員を務めている。

日鉄住金テックスエンジ・仲摩氏

 同社で初めての受賞。「上司、諸先輩方が積み上げてこられた実績のたまもの。これからも指導して頂いた方々の信頼に応えるべく研さんに努めます」

 近年は、九州大会の県代表選手を勤務する機械事業本部大分機械センター大分工場に集めて指導。成果が実って、九州大会で大分県は団体4連覇中。

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