北朝鮮当局と庶民が繰り広げる「松の実争奪戦」

国際社会の経済制裁が、北朝鮮の当局も庶民もじわじわと締め上げつつある。

北朝鮮の複数の外貨稼ぎ機関の幹部を務めた後、米国に亡命した李正浩(リ・ジョンホ)氏は、先月16日の米ニューヨークでの講演で「米国の科した制裁は史上最強レベル、北朝鮮は1年もつかわからない、多くの住民が命を落とすだろう」と述べた。

そんな苦境に追い込まれた北朝鮮では、当局と住民の間で資源の争奪戦が起きている。その資源とは、松の実だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

北朝鮮では、松の実が熟すのは9月に入ってからだが、中国に輸出したい当局と、市場で売って儲けたい地元民は、8月中旬から山に入って松の実争奪戦を繰り広げる。充分に熟すのを待てば良質の松の実が収穫できるのだが、悠長に待っていれば全部取られてしまうため、双方ともさっさと取ってしまおうとする。

当局は、処罰をちらつかせて住民に脅しをかけるが、かなりの儲けになるため、リスクを犯してでも夜間に山に入る人が多いという。

北朝鮮で松の実が多く取れるのは、故金日成主席が下した「山に松林を作って、松の実で油を作って人民に供給せよ」との教示に基づき、全国的に松林が造成されたからだ。

活用されることのないまま30年ほど放置されていたが、中国で松の実の需要が高まった1990年代後半から大々的な収穫、輸出が始まった。

しかし前述の通り、充分に熟していないものを収穫してしまうため、品質がよいとは言えない。また、華僑の情報筋は、北朝鮮の松の実は品質管理に問題があるという。

「北朝鮮産の松の実は殻が多くきちんと選別されていない、昔からの悪い習慣だ」(華僑の情報筋)

質の悪さが、輸出にも悪影響を及ぼしている。

中国のある貿易業者は、北朝鮮から松の実を輸入しようと交渉を進めている。提示された金額は1キロ(900〜1070粒)で30元(約510円)。中国産の100元(約1700円)に比べて3分の1以下だが、貿易商は答えを出しあぐねている。

というのも、北朝鮮産のものは精製されておらず、大きさもまちまち、殻が1〜2割混じっているためだ。あまり安く売ると儲けが出ないが、だからと言って高値で売ると消費者から何を言われるかわからないというわけだ。この業者は、一体いくらにすれば適当かが判断できず、悩んでいるという。

このような資源の争奪戦は、北朝鮮の各地で起きている。

北部山間地域の両江道(リャンガンド)では毎年、ブルーベリーの一種「トゥルチュク」(和名クロマメノキ)を巡って騒動が起きている。

当局は、住民を動員してブルーベリーの収穫に当たらせる。しかし、全国から人が押し寄せて当局の監視の目をかいくぐってブルーベリーを取ってしまうため、入山を禁止して取り締まっている。それでも、家を売り払って手にした資金を手にしてやって来た人びとの気合の入れようはものすごく、当局とイタチごっこを繰り返しているという。

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