本当の恋がわからない…人を好きになれない41歳

生きることに彷徨うアラフォー独身の女性。彼女の「人生のブレ」「人を愛せない気持ち」は、決して他人事ではないのかもしれない。

「本気の恋がわからない」「幸せってなに?」これまでの人生、何度も恋愛を繰り返してきた。決して不幸なわけではない。だが、ミホさん(41歳=仮名)は、彷徨っていた。

若いときの恋愛はワンクール(3カ月)などと言われている。お互いを知り始めたところで、すでにジ・エンド。たかが3カ月で何がわかるのだろうと思うが、刺激を求めているだけなのかもしれない。もちろん、自分自身もそうだったのだ、あのころは。

個人差は大きいと思うが、まともに人と向き合い、理解しようとつとめ、一瞬であっても相手とわかりあえるようになるのは、20代後半からではなかろうか。そこから、恋愛は深いものになっていく。結婚に向かう人もいるだろう。

ただ、結婚しないからといって、おかしいとは思わない。恋愛を繰り返す人生だっていいのではないだろうか。本人が納得さえしていれば。ミホさんは、恋愛を繰り返してきた自分に「モヤモヤしている」と言う。

最初の恋で男に裏切られて……

――ミホさん、最初の大人の恋愛っていくつのときですか?

ミホ:意外と遅いと思います。大学に入ってからだから19歳かな。相手はバイト先の20歳年上の人。バツイチで、当時は独身でした。

――どんな恋愛だったんですか?

ミホ:大事にしてもらいました。この人にとって、私は世界一の女なんだって思わせてくれた。デートのときは車で迎えに来てくれたし、デート代は全部彼が出してくれた。ときどき、「そろそろ新しい洋服がほしいでしょ」って一緒に買い物に行って、洋服から下着まで買ってもらった。ラブホなんて行ったことない。いつもちゃんとしたホテルに泊まっていました。

――その人とはどうなったんですか?

ミホ:1年半くらいつきあったとき、彼が突然、行方不明になっちゃったんです。あとから共通の知り合いに聞いたら、お金がなくなって田舎へ帰ったらしい、と。

――ミホさんのためにお金を使いすぎたんでしょうか。

ミホ:そうみたいです。言ってくれればよかったのにね。そのとき、私、男ってこうやって裏切るのかと思ったんですよ。見栄張っていいかっこして、最後はこうやってポイ捨てなのか、と。

――彼は彼でつらかったんじゃないかしら。

ミホ:でも結果的には、私をアクセサリーのようにしか考えていなかったんじゃないかなあ。お金が続かなくなったら終わり。その程度の女としか思ってなかったということでしょ。

――逆に捨てられるのが怖かったのかもしれませんよ。

ミホ:どうなんだろう。でもその結果、私の恋愛は変わっていったような気がする。

男に求めるのはお金?

――どういうふうに変わったんですか?

ミホ:ちやほやされたこともあったけど、私自身は彼を信頼していたんですよね。でもそれから、信頼することが怖くなったんです。恋愛って信頼関係が基本のはずなのに、そう思っていた私が間違っていたのかもしれない。だったら、こっちが利用すればいいんだ、と。

――次につきあったのはどういう人?

ミホ:大学の教授です。単位がほしかったのと、大学院に行こうと思ったので、粉かけてつきあうところまでもっていった。この人も40代独身でした。学生生活上、いろいろ便宜をはかってもらった。ときどき、お小遣いもくれたし、いい人でした。同時に、同じ大学でいいとこのボンボンを見つけて、彼ともつきあっていました。

――その人のことは好きだったの?

ミホ:本気になりかけましたね。でも、彼はたぶん、私のことを遊び友だちにしか思ってなかったと思う。「本気になったら負けだな」って思ってた。

――大学を出て就職したんですか?

ミホ:ええ、結局、大学院に行くほど勉強が好きでもなかったし。すでにバブル崩壊後で、就職は大変でしたけど、かろうじて潜り込めました。例の教授のおかげです。

――それからの恋愛は?

ミホ:いつでも相手はいましたし、周りから見たら幸せそうに見えていたかもしれない。そういうふうに振る舞っていたし。でも内心は、もっと愛情を見せてよっていつも思ってた。

――「愛情の証」ってなんですか?

ミホ:お金ですかね、やっぱり。10年ほど前、ある会社の社長と知り合って、マンションを買ってもらったんです。ちゃんと私名義にしてもらって、今でも住んでいます。彼は既婚者だったけど、家を買う程度には私を好きでいてくれたんだなと思って。

そういう思考が身についてしまったんですよ。友だちには「ミホって寂しい人だね」と言われるけど、愛情という形が見えないものを、どうやって形にするかといえば、お金しかないんじゃないでしょうか。

――お金さえあればいいの?

ミホ:そうは思わないけど、お金もかけられないのに何が愛情だよと思います(笑)。

――正直……とも言える気がしてきました。

ミホ:最初のデートで、ラーメン屋に連れていく男性と、予約のとれないイタリアンに連れていく男性、どっちが女性を大事に思っているか。そう考えたら、やはり後者でしょう。

――ミホさんが求めているものを与えてくれる男性に、ミホさんは何かを与えていますか?

ミホ:セックスだったり、心地よい会話だったり。与えていると思いますけど。

――それでミホさんは幸せ?

ミホ:私が結婚していないから、そんなふうに言うんですか?

――結婚は本人の選択だから、別にしなくてもいいと思う。だけど、話していて、何か腑に落ちないものがあるんです。ミホさんが満たされてないような……。

ミホ:ええ。正直言って満たされてない。住まいも確保したし、電話すれば車で送り迎えしてくれる男性だって、今もいます。おいしいものが食べたいと言えば、連れていってくれる人もいる。セックスしたければできる。だけどね……。

どうやったら、本気で人を好きになれるのかわからない

――今まで最長で、どのくらいの期間、つきあったことがあります?

ミホ:最初の彼がいちばん長かったかなあ。あ、教授がいたか。教授とはなんだかんだで3年近く続いていましたけど、恋愛という感じでもなかったなあ。たぶん、あちらも私に恋していたわけではないと思う。あとは1年未満ですね、みんな。

――それはミホさんから別れようと言ってきたんですか?

ミホ:いえ、ちゃんと別れ話とかしたことがないんです。なんとなく会わなくなっていくだけ。

――恋愛した、という実感がないのかしら。

ミホ:ああ、そうかもしれない。この人という決め手がないまま、ずるずる関係をもっているだけなのかもしれないですね。

――この人のためなら何でもする、という強い意志をもったことはない?

ミホ:ないですね。私、40歳になったとき思ったんですよ。結局、誰のことも好きじゃなかったのかなあって。30代半ばでつきあった人がね、「ミホのことが大好きだ。世界一好きだ」って言ってくれたとき、私は「私も」と言えなかった。この人、なんでそんなことが言えるんだろうって不思議な気持ちで見ていました。

――好きっていうのは、理屈じゃないですからねえ。

ミホ:この人でなければダメっていう気持ちがわからない。今の私に必要なものを与えてくれれば、その人が今の私にはいちばん大事な人。ただ、この先、だんだん私もトシをとっていくだけだし、ひとりじゃ寂しいのかなあって思うことも増えてはきましたね。

――実はミホさん、ずっと満たされてきたのかもしれませんね。

ミホ:いつも思うんですよ。「幸せってなに?」って。私は親の愛情にもあまり恵まれてなかった。私が小学校に上がるころ親が離婚して、私は父親と父の妹と一緒に暮らしていました。この叔母さんというのがまた変わった人で。あまり周りの大人に愛された記憶がないんですよね。

――だから誰かに甘える術がわからない?

ミホ:子どものころから、自分の食事は自分で作っていましたしね。ひとりで生きることに慣れてる。「甘える」というのがよくわからない。男に甘えられても困るだけだし。べたべたした関係に慣れていないので、周りは私を「自立しているよね」って言うこともあります。

一方で、正直言って男に不自由したこともないし、男の人からいろいろもらって生きているから、「男に依存してるよね」と言われることもある。自分でもどちらかわかりません。ただ、私は会社員なので、男がいなくなっても別にきちんと食べてはいける。

――毎日、楽しいですか?

ミホ:どうなんでしょうねえ。自分の生き方が定まらないという意味では、すごく自己嫌悪に陥ることもある。40歳過ぎて、そのあたりがブレてきましたね。時々、生きていていいのかと思うことさえある……。こんなふうにしか生きられないって開き直ることもできないし、大人らしく生きるってどういうことなのか、よくわからないし。

女性のなかには、望むと望まないとにかかわらず、男から「ものやお金をもらえてしまう」タイプがいるように思う。

彼女は積極的に、男にねだっているわけではなさそうだし、こうして文字にすると自慢しているように感じられたかもしれないが、決して自慢話をひけらかす女性でもない。誰かを恨んでいることもない。ただ、彼女自身がどうやって生きていったらいいかわからずに、ここまで来てしまったのかもしれない。

いわゆる「適齢期」に結婚して、専業であれ兼業であれ、「主婦」という立場におさまると、生きていることへの安定感はある。独身で、恋愛を繰り返し、さらにそれが「恋愛といえるものなのかどうか」の確証も得られないとなると、自分が依って立つ場所が見えてこないのではないだろうか。

私自身は、「男から何ももらえない女」ではあるが、根無し草的な生き方という意味では、彼女の気持ちがよくわかる。もしかしたら、これは現代の多くの女性が抱えている、漠然とした不安なのかもしれない。

(文:亀山 早苗)

© 株式会社オールアバウト